52話 主人公、紋章システムの仕組みを知るー1
目的の場所に着いた。
ホバーに乗っていた時間は、長くなかったような気もするが、ホバーが止まった瞬間、僕はホバーから転げ落ちていた。
そして。
自分でも気付かないうちに、ドラゴンに変現していた。
双子がとっさに、僕の周りに結界をはる。アースでも見た、球体の結界だ。そこに閉じ込められた僕は、軽くパニックになっていたようだ。
「「タクミ!大丈夫だから、ヒトである自分を思い出して!」」
双子の呼びかけに、やっと正気を取り戻すと、ジルの呑気な声が聞こえた。
「おぉ!これがタクミが変現した姿か!本当にドラゴンだな!精神に負荷がかかると変現するのか!トール様が言ってた通りだな。」
もしかして…!
『ジル!ワザと僕をドラゴンにしたのか!ヒドイよ!』
僕はドラゴンの姿のままで、ジルに抗議する。
「タクミ。たぶん違うよ。ジルの運転が荒いのは昔からだよ。」
「ごめん。止めなかった僕達も悪かったよ。」
「でも、もっと加減すると思ってたのに。」
「タクミ、もう二度とジルの後ろには乗らない方がいいと思うよ。」
双子の言葉に、もっと早く教えて欲しかった!と心から思う。
「おぉ、スマンスマン。次からは気をつける。ホバーに乗るのは、初めてだったな。すっかり忘れておったよ。」
ジルが、ガハハッと豪快に笑う。
僕はドラゴンから人の姿に戻る。やはり、アースより変現しやすいようだ。変現のコントロールができるようになったと、思っていたのになぁ。
これからは、もっと気をつけよう。ここが森の中で良かったよ。街中だったら、被害が出てたかも。
しかし、本当にこんなところに工房があるのか?
ただの森の中だよ?
そんな僕の感想を気にせず、ジルは森の奥へと入っていく。
「俺の工房はこっちだ。この辺りなら、少しくらい大きな音をさせても大丈夫だからな。ここに工房を作ったんだよ。」
大きな音がする何かを作っているってことか?
ジルについて行くと、開けた場所に建物がドンと建っていた。日本にある町工場のようだ。工房だという建物の横には、ログハウスみたいな建物がある。
「そっちが工房で、こっちの建物が生活場所だよ。お前達が暮らすなら、もう一個、建てるかな。」
ん?建てる?
ジルはそう言うと、ドグーを呼び出し、「同じもの出してくれ」と言う。
ログハウスみたいな巨大な建物を簡単に出せるの?嘘だろ?
僕のそんな感想も気にせず、ジルの紋章が光ると、ログハウスが出現した。
は?どういう仕組み?
「魔法みたいだろ?仕組みが知りたいか?」
ジルが聞いてくる。
「もちろんですよ!どうなってるんですか?」
「詳しく教えてやるから、とりあえず部屋の準備をしよう。タクミは、紋章システムが使えないからな。リオンとシオンに任せておけ、な!」
ジルが出したログハウスは、吹き抜けのあるリビングと、リビングから行ける二階に個室があるタイプの建物だった。
「二階には個室が4部屋あるからな。好きな場所を選べよ。」と、ジルが言う。
「僕はどこでも大丈夫です。」
僕が答えると、双子が「じゃあ、適当に部屋を整えておくから、タクミは一階にいてね」と言う。
またウサ子とウサ吉に頼んで、アースのマンションの部屋を再現してくれるのかな。ありがたい。慣れている部屋の方がくつろげるし。
「じゃあ、茶でもいれるかな。」
ジルがキッチンへ行く。
「ここも改造しないと、タクミには使えないな。精霊がいないってのは、本当に不便だな。」
ジルはそう言うと、またも紋章から何かを出す。
「これが簡易な調理台だ。この上に鍋を置くと自動で温めてくれる。火力の調整はここな。とりあえず、好きな時にお茶くらい飲みたいよな。タクミは、紅茶とコーヒー、どっちがいい?俺は断然コーヒー派だがな!」
「僕もコーヒーが好きですよ。」
「そう言うと思ったぜ。これは、コーヒーに似た風味のある花の実だ。これを鍋に入れて、水を入れて、煮立たせると、ほら!凄い良い匂いがするだろ?」
ホントだ!コーヒーのような香りがする。
「で、これを。っと、カップもいるな。精霊のいない生活は、ファラと旅して以来だからな。何が必要か忘れてしまったな。あと、足りないものは、リオンとシオンに出してもらえよ。」
ジルは、コーヒーもどきをカップに入れると、リビングのテーブルに置く。
すると、ちょうど、双子が降りてくる。
「部屋はいつもの感じで作ったからね。」
「何か足りないものがあったら、教えて。」
いつもありがとう!
リオンとシオンには、世話になってばかりだ。
「お前達も飲むよな。そこに座れ。」
ジルが、双子にそう言って、謎のコーヒーもどきを双子にも振る舞う。
意外とジルは面倒見がいいんだな。この中で一番の年寄りなのに。
あっ、年寄りって言ったら怒るよな。きっと。
「良し!茶も入れたし、紋章システムについて、じっくり話すとするか!」
ジルの言葉で、紋章システム初級講座が始まった。




