50話 主人公、紋章の仕組みを知るー2
「紋章の儀ってのは、その国の守護精霊に、この子の精霊を具現化するから、よろしくなって挨拶する儀式なんだよ。」
どういうこと?
「タクミには、少し難しいかのぅ。精霊っていうものが認識されていない世界から来たから、分かりづらいと思うが。ジルの説明も大雑把だしのぅ。」
「俺は分かりやすく説明してるつもりなんだがな。」
ジルはそう言いながら、話を続ける。
「この世界、エレメンテには、精霊が空気のように溢れている。子供が産まれると、その精霊の中の一部がその子に寄り添うようになるんだ。これは、モイラの協力があったから、分かったことだがな。」
「そうじゃよ。だから、我はその精霊を具現化しようと思ったのじゃ。だが、そうは簡単にはいかなかった。精霊の具現化は、ある限られた空間でしか成功しなかったから。」
ある限られた空間?
「アースにある空気ってのには、濃度というのがあるな。それと同じで、精霊にも濃度があってな。精霊が少ない場所だと具現化できなかったんだよ。」
「そうじゃ。それを解決するために、我は、守護精霊と契約したのじゃよ。守護精霊とは、その大陸の中で一番強い力を持った精霊でのぅ。タクミに分かりやすく言うと、パワースポットというヤツじゃ。その精霊と契約することで、その大陸の精霊の濃度を一定に保っておるのじゃ。だから、エレメンテにある王国はすべて、一続きの陸地なのじゃよ。守護精霊の影響が及ぶ範囲がそれだけしかないからのぅ。
守護精霊に意思がある訳ではない。あやつらは、だだそこにあるだけの存在じゃ。とてつもない力を持っておるがのぅ。その力を契約によって、利用しておるだけじゃ。」
「小僧に分かりやすく言うとな。守護精霊ってのは、普通の精霊より上位にいるんだ。だから、紋章の儀で守護精霊がその子を承認してはじめて、普通の精霊を具現化することができるってわけだ。」
「ファラの両親は、フラルアルド火山を祀る神殿で熱心に祈っていた。だから、ファラは産まれる前から、フラルアルドの加護を得ていたのじゃ。」
それって、つまり。
「フラルアルドの守護精霊の加護を受けたファラは、セシリアの守護精霊の加護は受けられないというわけなのじゃ。守護精霊は互いに同等なのだから。」
「そうだ。ファラはまさにフラルアルド守護精霊の申し子。フラルアルドの王の妻に相応しい女だったってことだな。」
なるほどな。
それにしても、紋章システムって知れば知るほど、仕組みが気になる。どうなっているのか、本格的に知りたい。
「原因が分かれば、小僧も紋章を授かることができると思う。それに、お前は先祖返りのドラゴンなんだってな。詳しく研究させてくれよ。なっ!」
ジルの勢いに負けそうな僕は、これだけは言っておこうと思った言葉を口にする。
「あの、そろそろ僕の名前を呼んでもらってもいいですか?僕は小僧っていう年でもないですし。僕はタクミと言います。」
「おぅ!それは悪かったな。俺にとっちゃ、みんな小僧に見えるからな。」
ジルが謝ってくれる。が、全然気にしてないようだ。
「田中よ。ジルは、ドワーフ族の血が強く出てのぅ。今は確か…。」
「おぅ!273歳だな!」
「そうか、お主も年をとったのぅ。」
「そうだよ。だから、最後の仕事だと思って、小僧、っと違ったな。タクミの面倒を見てやるよ。」
ジルが僕の方を見ながら、笑ってそう言う。
「「ちょうどいいじゃん!タクミ!」」
扉の方から、キレイにハモった声が聞こえる。扉を開けて入ってきたのは、リオンとシオンだった。
「ジル!久しぶりじゃん!」
「まだ生きてたんだ!元気だった?」
「おぅ、お前達は本当に騒がしいな。勝手に俺を殺すな。生きてるっての!」
双子もジルと仲が良いようだ。
「セシルさま。タクミは、ライルのラートルに参加してから、紋章システムに興味が出たみたいだよ。」
「だからこのまま、この国で学ばせるのも有りだと思うんだけど。」
双子の言葉を聞いて、ジルも乗り気になる。
「タクミは、紋章システムに興味があるのか?なら、俺の工房に来いよ!住むところも併設してるし、俺の弟子達もいるからな。どうだ?」
「そうじゃな。ジルは我の一番弟子じゃ。紋章システムについて、我の次に詳しいぞ。田中さえ良ければ、このフラルアルド王国に滞在してはどうじゃ?」
「タクミ!そうしなよ!僕達もここに残るからさ!」
「そうだよ!ここなら、紋章システムについて学べるし、タクミが紋章を授かれなかった原因を調べることもできるし。」
リオンとシオンが嬉しそうに勧めてくる。
僕はどこでも大丈夫ですけど。でも、みんなが熱心に勧めてくるのが、なんか気になる。セシリア王国にいたら、都合の悪いことでもあるんだろうか?
少し気になったが、紋章システムのことを教えて欲しいし、ジルの工房も見てみたい。
そんな感じで、僕はフラルアルド王国に滞在することになったのだった。




