45話 主人公、国の成り立ちを聞くー3
「王国について話をしておこうか。エレメンテにある王国は、タクミが一般的に想像してるような王国じゃない。」
「王様には家来がいて、王様や家来が下の人にアレコレ指示して、国を治めてるってイメージだろ?」
「違うの?」
「タクミに分かりやすく言うと、今のエレメンテで、一番偉いのは誰か?それは、紋章システムなんだよ。紋章システムが世界を治めているんだ。」
「王様じゃないの?」
「ライルのラートルで聞いたでしょ?誰が治めても、必ず不平等感を持つ人が出て、ダメなんだよ。」
「そう。世界を治めるのは、人では無く、平等なシステム!」
「このエレメンテには、法律も無いからね。」
法律も無いって!犯罪者はどうすんだ?
「別に無くても、困らないよ。エレメンテには、物を盗む人はいない。紋章システムが出してくれるから。人を害する人もいない。精霊が捕縛するから。」
「あと、何か困ることある?」
確かに!困らないね!
「だから、王様は王宮に存在するだけ。呪われた存在は、変なカリスマもあるからね。王様にしておくのが、安全なんだ。どこにいても、結局、目立つことになるんだからね。」
「そうそう。だったら、最初から王様にしておいて、王様って変だから仕方ないよねって思わせておいた方がいいでしょ?」
エレメンテの王様って、そんな感じなんだ!
「紋章システムを開発して、セシリア王国の初代王になったセシルさまが決めたことは、ただひとつ。紋章を授かった人は、必ず仕事をすること!それだけだった。」
「人はね。生きる目的が無いと、生きていけないんだよ。衣食住を保障されても、生きる目的が無い人は、ただ存在するだけの物に成り下がってしまうんだ。」
「何のために生きてるのか?それは、個人がそれぞれで見つけなくてはいけないんだけど、見つけろって言われても無理でしょ?タクミは、アースで生きる目的あった?」
そんな難しいこと、考えたこともなかったな。お金を稼ぐために仕事することが、普通だった。仕事が1日の大半を占めてたから、仕事を辞める勇気が無かったのも、それが一因だ。辞めたら、自分がどう生きていっていいか、わからなかった。特に趣味も無かったし、そもそもアースでは好きなことをするだけで生活できる人は、ほんの一握りだ。
「だから、セシルさまは決めたんだ。絶対に何かの仕事をしなさい!ってね。」
「そして、全ての人が何かの仕事ができるように、教育と国の整備に力を入れた。」
「紋章システム提供時の失敗から、教育の必要性を痛感したセシルさまは、子供達だけを集めて教育することにした。親と一緒だと、親の偏った教育で、その子が歪んでしまう可能性もあるしね。まぁ、親を亡くした子達を集めて教育していた施設が大きくなっただけなんだけどね。」
「そして、生きていく国を選べるように、国を作ったんだよ。」
「国を作ったって、どういうこと?」
「前にセシルさまが、どうしてイジメっていうものがあるのかって話をしたよね。」
「価値観の違いが原因だ、っていうようなことを言ってたと思いますけど。」
「そうだよ。人はね、価値観が似てる人同士で集まった方が、人間関係が上手くいくんだ。」
「例えば、タクミは戦争反対だよね?」
「もちろんです!」
「ってことは、暴力で解決するのは、絶対反対?」
「もちろんです!!」
「でもね。世の中には、そうは思わない人もいるんだよ。力が全てだ!強い者は尊敬されるべきだ!ってね。」
「そんな人が近くにいて、会うたびに手合せをお願いされたら、どう?お前、ドラゴンだろ?ちょっと俺と闘ってくれよって、言われたらどうする?」
「えっ!イヤですよ!!!何で闘うんですか?」
「闘いたいからだよ!っていうよな、あいつなら。」
知り合いに、そういう人がいるのかな?迷惑な人だなぁ!
「困るよね。だから、そういう人は、ガンガルシア王国の国民になります。ガンガルシアでは、力が全て。全国民に戦闘を申し込むことができるからね。」
「そんな感じで、7つの国には、それぞれ特色があるんだよ。16歳で成人すると、生きていく国を自分で選んで、そこの国民になるんだ。自分の価値観に近い国の国民になれば、ストレスが貯まることは少なくなるでしょ?」
「そうだね。でも、7つの国の特色って?」
「ガンガルシア王国は、闘いの国。特徴は、戦闘が許可されてること。どこでも、いつでも戦闘可能だよ。
セシリア王国は、天空の国。特徴は、教育とスカラだよ。」
「スカラ?」
「そうか、スカラに対応する言葉は無かったな。タクミに分かりやすく言うと、病院みたいなもの、かな。いつか連れて行ってあげるよ。」
「マルクトール王国は、学者の国。特徴は、議論好きなヤツらが集まる国ってこと。言葉で攻撃してくるヤツもいるから、反論できない口下手な人は他の国に行くことも多いよ。理屈や理論ばかり話すウザいヤツがいるから、この国にはあまり行きたくないよ。」
「あっ、ちなみにマルクトールは暴力禁止だから、暴力行為は即捕縛されるよ。ガンガルシアは、生命の危険が迫った時だけ精霊の緊急措置が働く。ガンガルシアに行くヤツは、ギリギリの状態まで自分を追い込まないと納得できないヤツばかりだからね。」
「イリステラ王国は、愛の国。特徴は、恋や愛に寛容な国ってこと。とにかく出会いが欲しい男女が行く国だよ。タクミに一番必要な国だよね!」
そうだね!いつか行ってみたいけど。
でも、なんか双子の言い方が、バカにされてるみたいでイヤだー!僕だって、出会いさえあれば、お付き合いできると思うのに!今までは、出会いが無かっただけだ!僕がモテないからでは無い!そう思いたい!
そんな僕の心の叫びを無視して、話は続く。
「残りの国は、まだ全然知らないよね。グランエアド王国は、美の国。特徴は、芸術至上主義者が多いこと。音楽、絵画、文芸、演劇などの創作活動が盛んな国だよ。自分の芸術のことしか頭になくて、意思の疎通が取れないヤツも多いんだ。特に今の王のエア様は、ホント無理!毎回、会話にならないから!」
「ベアルダウン王国は、食の国。特徴は、広大な土地で作物などを育ててる。タクミに分かりやすく言うと、農業国ってこと。紋章システムから提供される食料は、ほとんどがこの国で作られた物だよ。」
「フラルアルド王国は、技術者の国。特徴は、新しい物や技術の開発者が集まる国ってこと。巨大な工場や工房があって、面白い国だよ。」
「エレメンテには、この7つの国があるんだ。」
「すごいね。」
僕は素直に感心していた。これだけ多様な国があれば、自分にあった国が見つかるよな。しかも、アースと違い、ダメだと思ったら、国をすぐに変わることもできるようだし。アースだと、仕事や家族があるから、気軽に転職や引越しも出来ない。エレメンテは、本当に自由な世界なんだな。
「でも、成人の時に選ぶ選択肢の中には、7つの国以外にもう一つ、重要な選択肢があるんだ。」
双子にしては、もったいぶった言い方だ。
「それは、何?」
僕は、興味津々で聞く。
「「どの国も選ばないってこと!!」」
どの国も選ばない?
ってことは?まさか?
「そう、紋章システムを放棄して、自給自足の生活を選ぶ子もいる。そういう子は、7つの国以外の場所で生活することになるんだ。」
紋章システムみたいな便利ものを放棄して、わざわざ自給自足の生活を選ぶ人なんてホントにいるのか?信じられない!




