39話 主人公、ゆりかごに行く
ラートルが終わった後のライルは、参加者に囲まれて、とても話ができる状態ではなかった。
ライルに色々聞きたいことがあったんだけどなぁ。仕方ないので、とりあえず部屋に戻ることにした。
部屋に戻ると、双子達が待っていた。
「もう終わる頃だと思って、待ってたよ。」とシオンが言う。
「リオンはもう大丈夫なの?」
心配して、リオンにそう聞く。
「イリスのことは、もういいよ!あいつの態度は、昔からだからね!でも子供が産まれたなら、おめでとうって言うのが、人として当然のことでしょ?」
「素晴らしい!素晴らしいですぞ!リオン!わたくしめは、感動で涙が出そうです!」
ウサ吉がリオンの腕の中で、喜んでいる。
元気になったようだけど、まだウサ吉が必要なんだね。
んっ?でもいま、なんて?イリス様、子供が産まれたんだ!
「だから、今からゆりかごに行くつもり。タクミも行きたいかなと思って、待ってたんだよ。」
「僕も行きます!でも、何かお祝いの品がいりますね。」
日本では、出産祝いをあげるのが普通だけど。
「アハハッ!そんなの、必要ないよ!ここはエレメンテだよ。欲しいものは紋章システムが出してくれるから。」
そうだった!まだまだ日本人のクセが抜けないな。この世界に慣れることができるのだろうか?ホント心配。
「「ほらっ、行くよ。」」
双子はそう言って、僕の手を引いてゆりかごへ向かった。
「「イリスーっ。産まれたって?良かったね!で、誰の子だった?」」
ゆりかごに着くなり、双子はイリスにそう聞く。
誰の子って?そんなのお付き合いしてる人の子供だろ?僕はそう思ったが、イリスの口からは、想像と違う言葉が出る。
「さぁ、誰の子かしらねぇ?今度の子は、まだ特徴が無いのよねぇ。前の子は可愛いコウモリの羽があったから、ガンガルシアのウィルとの子供かなぁって分ったんだけどぉ。」
なんと!お父さんが分からないってどういうこと?同時に何人もの人とお付き合いしてたってことだよね?それは、リオンもトラウマになるよ。自分が好きな人がイリス様の恋人の一人だったら、ひとりくらい譲りなさいよ!って感じになるよな。
そう言えば、ライルのラートルで、王には特殊な能力があるって言ってたな。イリス様の特殊能力って、まさか。
「タクミ、ナニ考え込んでるのさ?」
リオンが僕の様子に気付いて、声をかけてくれる。
僕は、いま考えていたことをリオンに話すと肯定の返事が返ってきた。
「そうだよ。イリスってば、とにかくモテるの!あれはもう、特殊能力だよ。イリステラの王様になる人は、だいたいそんな感じなの!腹立つよね!ひとりくらい、コッチに譲れっての!」
あっ、僕が考えていた通りの反応だ!
「子供見る?こっちにいるわよぉ。」
そんな僕達の会話も綺麗にスルーして、イリスが案内してくれる。
でも歩いても大丈夫なのかな?産後って身体を休める必要があるんじゃ?
「イリスは規格外だからね。ポンッて産んで、すぐ動けるくらいだから。他の母親達が信じられないって顔で、いつも見てるよ。」
シオンが教えてくれる。
「さぁ、ここよぉ。」
イリスが案内してくれたのは、産まれた子供を一時的に保護する場所らしい。日本の病院の新生児室みたいなものかな?
「あれっ?エルがいる。」
その場所では、エルが産まれたての子供の面倒を見ていた。
「あぁ、エルはここでは育児の指導者だからね。経験のない母親に、世話の仕方を教えたりしてるんだよ。あとは、教育係の子供達の子育て相談にのったりね。」
今度はリオンが教えてくれる。
が、ものすごい違和感!子供達の子育てって何だよ!自分も子供だよね!
「エル、ウチの子どう?」
イリスがエルに話しかけている。
「元気な男の子です。まだ特徴は出てないですが、妖精種の血が強いような感じがします。」
「そうなの?さすがはエルねぇ。年の功かしらぁ。」
「そうですね。多くの経験から、何となくそう判断しました。イリス、紋章の儀はどうしますか?参加しますか?」
紋章の儀?
「そうねぇ。もう15回目だしねぇ。んーっ、どうしようかしらぁ。」
「イリス!普通は参加するもんだよ!お母さんでしょ!」
リオンが激しく抗議する。
「わかったわよぉ。参加するけどぉ。そうだ!リオンとシオンとドラゴンちゃんも来なさいよぉ。」
「「どうする?タクミ?」」
「紋章の儀って何ですか?」
「あっ、知らないか!産まれた子供に紋章を与える儀式のことだよ。だいたい生後7日目の子供に紋章を与えるんだ。逆に産まれて7日間は、紋章がないからね。何かあるといけないから、ここの施設に預けるんだよ。」
「なるほど。じゃあ、イリス様、ぜひ参加させてください。ライルのラートルで話を聞いたので、紋章に興味がでたんです。」
「いいわよぉ。でもここにいる間は、私のことはイリスって呼んでねぇ。いま私は王様じゃなくて、ただの母親なんだからぁ。」
「わかりました!イリス!」
「ウフフッ。セシルの所のドラゴンちゃんは本当に可愛いわねぇ。じゃあ、また。紋章の儀で会いましょうね。」
イリスはそう言うと、産まれたばかりの我が子のところに向かい、子供をソッと抱く。優しい顔をしている。
ちゃんと、お母さんなんだなぁ。
なんだか感動した僕だった。