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4話 主人公、異世界メシを食べる

 


「なんですか!これは〜!」

 僕は恐怖していた。

 ヤバイ。このままでは死んでしまうかもしれない。でも、もう逃れられない。僕は覚悟した。


 食べ過ぎで死ぬことになっても全部食べてみせる!と。



 朔夜(さくや)さんが出してくれた料理は創作和食のようなコース料理だった。次から次へと美味しいものが出てくるのだ。

「なんですか?これ?カニみたいな風味があります。美味しいですね〜。」

「それはな。南の方の海で採れるテッポウガザミや。美味いやろ?こいつ、ごっつ強くてな。捕獲するの大変だったんよ。」

「朔夜さん、自分で取りに行くんですか?すごいなぁ。美味しいなぁ。もう、絶品です。」


 僕は一心不乱に食べていた。

 普段なら、こんなに食べられないのに。きっと朔夜さんの作るご飯が美味しいからだよね。


「田中よ。慌てなくても朔夜はたくさん作ってくれておる。ゆっくり食べるのじゃ。」

 見兼ねたセシルが声をかける。

「困ったヤツじゃな。朔夜の美味しい料理を食べながら、話をしようと思ったのじゃがなぁ。」

「田中は食事のマナーも守れないのですね。サイテーです。」

 エルが辛辣なことを無表情で言い放つ。


 僕、もしかしてエルさんに嫌われてます?


「ガハハ。タクミよ。大丈夫だぜ。うちの王宮にはマナーなんて無いからな。朔夜のメシが美味いから、仕方ないよなぁ。」

 ガルシアが(かば)ってくれる。


「それにしても、よく食べるのぅ。田中は元々、大食いなのかのぅ?」

「ふぇん、ふぇん、でふ。」

「田中よ。口に物が入ったままで返事をするでない。向こうの世界にいたときは、大食いではなかったと?」


 その様子をジッと見つめていたトールが口を開く。

「セシルねえさま。タクミさんは先祖返りです。もしかすると、身体がドラゴンへ変現した分のカロリーを取り戻そうとしているのかもしれません。」

「確かに、そうだのぅ。ドラゴンの巨体を維持するには相当の熱量が必要じゃからなぁ。」

「えぇ!じゃあ、僕はずっと大食いのままですか?食費が怖いです。ただでさえ、会社をクビになったのに。」


 そうだ、僕は会社をクビになって、とても落ち込んでいたはずなのに。なんか、そんなことどうでもいい気持ちだ。それに、異世界に来たり、ドラゴンになったり、猫耳の超絶美男子を見たりと、普通ならもっとパニックになってもおかしくないのに…。


「そうだよ、僕は何でこの状況を受け入れてるんだろう?」


 ポツリと呟いた僕に、トールが答えを教えてくれる。


「タクミさん。竜種の特性の一つに、とても高い精神耐性があります。この状況をすんなり受け入れているのは、そのためだと思います。」

「精神耐性?」

「ちょっとしたことでは動じなくなる、ということじゃな。」


 えぇっ?異世界とかドラゴンとかって、ちょっとしたことじゃないと思うんですけど。


「ドラゴンは好奇心旺盛な種族じゃった。多種族の者と進んで関わりを持った。だが、ドラゴンより長命な種族はそうは居らん。誰かと仲良くなっても、相手の方が先に死んでしまう。誰かを失う悲しみに耐えられるように自然とそうなった、と考えられておる。

 まぁ、実際のところはわからないがなぁ。なにせ、この世界にはもう、純血のドラゴンは存在しないからのぅ。」


「僕はこれから、どうなるのでしょう?」


「そうじゃな。それを話し合う必要があるのぅ。」


「タクミさん。ドラゴンへの変化、変現(へんげん)と言いますが、慣れるまではあまり変現しない方がいいかもしれません。

 ドラゴンに変現すると、解放感というか、なんというか、ちょっと表現し辛いのですが、そんな感じに囚われて、元のヒトの形を忘れて、戻れなくなる可能性があります。」

「ドラゴンの姿になったままになる、ってこと?」


 確かにドラゴンの姿は気分が良かった。なんでも出来てしまいそうな万能感があった。


「はい。セシルねえさまが言ったとおり、この世界にはもうドラゴンは居ません。ヒトの形で生きていく方がいいと思うのです。」


 そうだよね!ドラゴンのままだと、こんなに美味しい朔夜さんのご飯も食べられなくなるし!


「それでですね。セシルねえさま。タクミさんが慣れるまでは、あちらの世界、アースで暮らした方がいいかと。こちらの世界では、ちょっとしたことで変現してしまいますから。」


「そうじゃな。まずは、アースとこちらの世界、エレメンテの大きな違いから説明するとしようかのぅ。朔夜、ちょっとここに来るのじゃ。」

 セシルが朔夜を呼ぶ。


「ちょっと待ってや。このデザートで、とりあえず最後やから。ほい、タクミ。いっぱい食べ。」


 朔夜さんが、山盛りのデザートを出してくれる。

 こんなに食べていいの?

 どれも美味しそう。


「ええよ、セシルさま。」

 割烹着をはずして、席につく朔夜にセシルが左手を見せろという身振りをした。

「あぁ、これな。ナビ太、セシルさまがお呼びやで。」

 朔夜の左手が発光し始める。

 あの砂漠でガルシアが服を出してくれた時に見た現象と同じだった。


 何が起こるんだろう?


 朔夜の左手をジッと見ていると、光の中から小さな影が現れた。


「サクヤ、呼んだにゃ?」

 光の中から現れたのは、背中に羽の付いた小さな黒猫だった。

「おぉ、ナビ太。セシルさまがお呼びやで。」

「そのセンスのかけらも無い呼び方やめるにゃ。」

 文句を言いながら、朔夜の周りをパタパタと飛び回る。


「田中よ。これが、この世界の中心にいる《精霊》という存在じゃ。」


 羽の付いた小さな黒猫、朔夜はナビ太って呼んでたけど、精霊って、どういうこと?


「この世界エレメンテでは、火が燃える、水が流れる、風が吹く、など、全ての自然現象に精霊が関わっておる。精霊は目には見えないが、確実に存在する。この世界は、精霊で成り立っているのじゃ。」


 目には見えないって。

 パタパタ飛んでますけど?

 どういうことですか?




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