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36話 主人公、異世界の歴史を学ぶー2

 


「それで、そのドゥイガーン王国はどうなったの?」


 ライルの話に聞き入っていた子供が、続きを促す。


「ドゥイガーン王国は、侵略した国の民に酷いことはしませんでした。むしろ手厚く保護したのです。戦争で破壊された街を再建し、病院を建て、親を無くした子供達のための施設を作りました。」


「ドゥイガーンの王様は、賢い王様だったんだな。侵略した後のケアが大事だって理解してたんだ。」

 体格の良い討伐者風の男が、そう感想を述べる。


「えっ!でも、本当に賢い王様なら、戦争はしないんじゃない?」

 男の近くにいる女の子が答える。


「それは、戦争しか方法が無かったから、仕方ないんじゃねぇのか?作物が取れないんじゃ、民は飢えて死ぬだろうが。」

 冒険者風の男が反論する。


「んーっ、でも。戦争をする前に、例えば土壌改良とか、作物の品種改良とか、色々とできることはあったと思いますけど。」

 今度は、良く日に焼けた健康そうな女性が発言する。


「土壌改良や作物の品種改良には、長い時間が必要だからな。その間に国民がどんどん死んでいったら、どうすんだよ?」

 冒険者風の男が言う。


「はい。みなさんの言うことはどれもいい意見だと思います。もし、自分がこの王様の立場ならどうしただろうと想像することが重要です。想像することで、王様の立場を疑似体験することができるのですから。歴史から学ぶ、とは、このような事も含まれるのです。」


 そこでライルは一呼吸おいて、参加者の顔をそれぞれ見る。


「では、このドゥイガーン王国はどうなったのか?結論は先に言ってありましたよね。世界統一まで、あと少しだったと。」


「うん!最初に言ってたね。でも、どうしてダメだったの?」


「ドゥイガーンの王様が、いくら街を再建しても、子供達を保護しても、哀しみは無くならなかったからです。親を殺された子供はいつまでもドゥイガーンが憎いでしょう。例え、その親が兵士として戦った末、殺されたのだとしても。兵士だから、一般人だから、という割り切りはできないのです。兵士だったから、殺されても仕方ない。それが戦争なんだから、と納得できる子供は少ないでしょう。そして、戦争に巻き込まれて亡くなった人々の遺族は、さらに納得できないでしょう。」


「でも、それはドゥイガーン王国だけが悪いって訳ではない気がします。侵略を武力で対抗しようとしたんだから、その国も悪いと思いますが。」

 顔色の悪い学者風の男が、意見を言う。


 この発言を聞いたライルは、その男に質問する。


「では、あなたがいま、その隣にいる大きな男性に殴られたとしたら、あなたはどうしますか?無抵抗ですか?話し合おう、と言葉で返しますか?」


「僕なら逃げます。この方はとっても強そうなので。」


「では、あなたの後ろには、あなたがとても大切にしている人がいたとしたら?そして、その人は足が悪くて逃げられないとしたら?」


「むむっ。そうですね。その場合は戦います。大切な人を守るために。」


「侵略された国も同じですよ。大切な国民を守るために、武力には武力で対抗するしかないのです。もちろん、侵略されないように日頃から気を付けておくことが大事ですけどね。」


 そして、ライルは続ける。


「もし、いまここに怪異が現れたとしたら?やはり対抗できるのは、武力だけです。だから、エレメンテでは、ファミリアで戦闘訓練もしますよね?怪異は、今では、ガンガルシア王国にしか出現しませんが、それまではエレメンテ中に現れていたのです。今でも、数は少ないですが、ガンガルシア王国以外でも、出現しているのですよ。」


「そうなんだ!知らなかった!」

 この中で一番小さな男の子が言う。


「だからファミリアでは、いつどこで怪異と遭遇しても生き残れるように、戦闘訓練をするのです。

 話が少し逸れてしまいましたね。

 でも、ドゥイガーン王国があと少しで世界統一できなかった理由は、この怪異にあったのですよ。」


「どういうこと?」


「ドゥイガーン王国が侵略してから、数年は何も起きませんでした。戦後というのは、復興でやる事がいっぱいありますからね。ところが、やっと復興し始めた国に異変が起きます。各地で怪異が出現したのです。そのどれもが、超特大の怪異でした。実はその頃は、怪異がどうして発生するのかの原因がわかっていませんでした。怪異は天災のようなものだと考えられていたのです。」


 ライルは近くの女の子に聞く。

「怪異がどうして発生するか、知っていますか?」


「はい。何かとても悲しい事があった人など、心が弱っている人に取り憑いたグールが原因ですよね。」


「そうですね。グールはそういう人に取り憑き、感情を食い尽くすことで、怪異に変貌します。今では解明されているので、グールに取り憑かれないように、みなさんの精霊それぞれがあなた達を守ってくれています。」


「僕達には、まだいないよ?」

 小さい男の子が、抗議する。


「君達の精霊は、まだ見えないだけで、確実に君を守ってくれていますよ。左手に紋章があるだろう?その中で、君が大きくなるのを待っているんだよ。」


 ライルの言葉に、男の子は左手の紋章を右手で優しく撫でる。

「そっかぁ。守ってくれてるんだ。早く会いたいな。」


「グールや怪異について知識の無かったドゥイガーン王国は、こうして滅びました。超特大の怪異には、自慢の武力も通じなかったからです。心の闇が深いほど、大きくて強力な怪異が誕生することが、今では分かっています。戦争で親を失った子供や、子供を失った親、愛する人を亡くした人々が次々に怪異となってしまいました。このドゥイガーン王国の滅亡によって、軍事国家での世界統一は無理だということがわかったのです。」


 じゃあ、最後に残った民主主義国家が世界統一したってこと?

 でも、今のエレメンテって王国だよね。民主主義国家には、王様っていないと思うんだけど。日本の天皇のように、象徴ってことなんだろうか?




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