35話 主人公、異世界の歴史を学ぶー1
「約500年前、紋章システムが開発されるまでは、エレメンテには多数の国がありました。軍事国家、民主主義国家、独裁国家、宗教国家など、主義主張が異なる国が日々、戦争を繰り返していました。」
ライルは、参加者の顔を見渡すと続ける。
「軍事国家というは、その名前の通り、武力、軍隊の力で統治している国です。次に民主主義国家は、国の政策を決める人達を、国民が選びます。投票だったり、話し合いで決めていたようですね。
次に独裁国家は、一人の個人または少数の人々によって統治されている国のことです。で、最後に宗教国家は、ひとつの宗教を信じる人のみで構成された国のことです。」
と、ここでライルが、参加している一人に話しかける。
「この世界には、国に関係なく、大いなる呪いというものがありますが、知っていますか?」
質問された子供が答える。
「グールに取り憑かれた人が変異してしまう呪い、怪異があります。」
「そうです。怪異は必ずこの世界の人々を襲います。この呪いがいつからあるのかは分かりません。最も古い記録では、800年前には存在していました。巨大な怪異によって、国が一つ滅んだこともありました。怪異という脅威があっても、人々は団結することはなく、世界がひとつになることはありませんでした。そして、戦争も無くなりませんでした。
ところが、500年前、このセシリア王国、初代の王が紋章システムを開発しました。そこで、やっと世界はひとつになったのです。」
「ライル。初代の王はどうやって世界を統一したの?」
参加者の一人が聞く。
「いい質問ですね。では、世界を統一する方法を考えたことはありますか?」
「えっ?考えたこともないよ。どうするのかなぁ?」
聞かれた子供は、答えられない。すると、近くにいた大人が口を開く。
「武力、経済力、後は宗教みたいな強固な教え、などがあるかな。神の名の下に一致団結するってヤツだな。」
「そうですね。武力、経済力は、何らかの強大な力で人々を従わせるということです。だから、従わされた側は、後々まで恨みを持つことがあり、戦争は無くなりませんでした。」
ライルは、そこで一旦区切る。
「次に強固な教えで人々を従わせる、ですが、宗教国家や独裁国家などが、これにあたります。これは、その国家に属している人、産まれた時からその考えしかない世界の人には受け入れられますが、そうではない国の人が従うようになるには、長い時間がかかります。まぁ、ある種の洗脳ですからね。そこのあなたは信仰している神様はいますか?」
ライルが一番奥にいた女性に質問する。
「はい、私はカルディア様を信仰しております。」
「無病息災、心身の健康の神様ですね。」
「はい。私は小さい頃から、少し身体が弱く、すぐ病にかかってしまうのです。カルディア様にお祈りすることで、少しでも健康になればと思い、信仰しています。」
「そうなんですね。ではもし、今から、カルディア様では無く、んーっ、そうですね、僕、ライル様を信仰してください、となったらどうしますか?」
「えっ!それは無理ですよ。」
女性が笑いながら答える。周りからも笑いが起こる。
「ふふふっ、そうですよね。カルディア様を信仰しているあなたに、ライル様を信仰しなさい!と言っても無理ですよね。では、あなたの子供なら、どうでしょう。あなたの子供はライル様しかいない世界に産まれました。周りのみんなが、ライル様を信仰するように言います。」
「私はまだ子供はいませんけど。もしそういう世界なら、ライル様を信仰するようになるのでしょう。」と、女性が答える。
「昔、宗教によって世界を統一しようとした国がありました。世界の全員が、ひとりの神様を信仰するようにしよう、と宗教戦争を起こしました。しかし、その神様は人を殺してはいけないという教えを持っていました。」
「人を殺してはいけないっていう教えなのに、戦争するの?」
ライルの近くにいる子供が、疑問を口にする。
「そうです。その国では、その神様を信仰しない人は人ではない、と教えられていたのです。人ではないから、殺しても良いという考えなのですよ。」
「えっ!それって、なんか変だよね?」
「そうですよね。それに、エレメンテでは昔から多種の神様を祀っていました。それこそ、種族ごとに。いや、それ以上の神様がいたのです。これは、神殿の遺跡がたくさん発見されていますので、僕の空想ではありませんよ。」
参加者から、また笑いが起こる。
「そんなエレメンテで、ひとつの神様しか信仰してはいけないと言われても、無理ですよね。だから、宗教国家による世界の統一はできませんでした。」
「次に独裁国家ですが、その王様や統治している人々が、国民のために良い政治を行えば、国民も満足ですし、世界を統一できたかもしれません。ところがそうはならなかった。人は必ず死んでしまうからです。その王様は良い人だったかもしれません。でも次の王様は?次の次の王様は?
また、独裁国家は一人の王様しかいないため、その王様以外はただの国民になってしまう。すると、他国の王様だった人は、そんなこと絶対に許せませんよね。ということで、独裁国家による世界統一もできませんでした。」
ライルは、ここで僕に向かって声をかける。
「では、残ったのは軍事国家と民主主義国家ですが、どちらが世界を統一できると思いますか?」
急に話しかけられた僕は、少し戸惑いながら答える。
「えっと、軍事国家は戦争で世界を統一しようとしますよね。そうすると、いろいろな国から恨みを買います。一度は統一できるかもしれないけど、恨みを持った人達に、ひっくり返される可能性がありますね。だから、軍事国家による世界統一は、一時ならあるかもしれないけど、結局は、また戦争になる気がします。そうなると、残ったのは民主主義国家だけど。」
そこで僕はアース、日本の事を思い出した。日本は民主主義国家だ。民主主義国家って一見良さそうだけど、どうなんだろう?国民が選んだ人達が国会とかで話し合って決めてたけど、話し合いに時間がかかって、結局なかなか決まらないことが多いよね。それに、選挙も、テレビとかでよく見る人が結局当選しちゃって、タレント議員とか二世議員とかが問題になってたよね。
黙ってしまった僕に、ライルが助け舟をだす。
「では、後は僕が話しますね。
昔、軍事国家による世界統一を目指し、あと少しで統一できるところまでいった国がありました。現在のガンガルシア王国がある大陸に存在した、ドゥイガーンという国です。
ドゥイガーンの国土は、ほとんどが砂漠と荒野でした。厳しい環境のため、作物があまり育たず、国民は常に困窮した生活を送っていました。だからある時、ドゥイガーンの王様は、国民のために、作物が豊富に採れる他国とドゥイガーンを統一することを考えたのです。
ところが、その他国にとっては迷惑な話ですよね。僕のお家のお庭では作物が取れないから、君のお家の敷地をくださいって言ってるようなものだから。当然、その国は拒否します。
ドゥイガーンでは、後世の子供達のために!をスローガンにして、兵士を募りました。子供達には、良い生活をさせてあげたいと思う大人達は、兵士になりました。そして、その想いの強さが武力となり、次々に他国を侵略していきました。」




