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3話 主人公、王宮で風呂に入る

 


 眩しさに目をつぶり、次に目を開けると景色が一変していた。


 闘いの国、ガンガルシア王国の王宮は、日本にある、見慣れた建物に酷似していた。

 どこかで見たような建物だなぁ。王宮に行くと聞いて、内心ドキドキしていたが、なんだか居心地いいかも。


「おぉ。この国の王宮に来るのは久しぶりじゃな!」

 王宮を見て、セシルがウキウキしている。


「ガルシアさま、おかえり。無事保護できたんやね?」

 20代後半くらいの超絶美男子が出迎えてくれる。


朔夜(さくや)〜!ご飯作って欲しいのじゃ〜!」

 セシルがダッシュして、美男子に抱きついた。

「おぉ、セシルさま。久しぶりやん。元気やった?」

 えっ、なに?関西弁?

 しかも、この朔夜と呼ばれてる青年の頭には、日本では、ある特定の場所でしか見られないものが…。

「お〜、兄ちゃん、珍しいか?俺の猫耳。」

 僕の視線を感じたのか、朔夜が声をかけてくる。コスプレ猫耳美男子!

「あの、その、萌え!です!」

 あっ、口に出しちゃった。


 ガルシアと朔夜が大爆笑している横でセシルが口をひらいた。

「田中よ。この世界に住んでいる大多数はアースにいるようなヒト種とヒト種以外の混血じゃ!咲夜は夜猫族(やびょうぞく)の血が濃く出ておってのぅ。」

「夜猫族?」

「いわゆる獣人というヤツじゃな。夜猫族は黒い毛並みが綺麗な猫科の部族でな。猫科の部族の中でも特に気配を消すのが得意で、夜猫族は昔、暗殺を生業(なりわい)としていたそうじゃ!日本の忍者と一緒じゃな!」

 いやいや、セシルさま。日本の忍者はどちらかと言うと、暗殺より諜報活動を主な生業としていたようですよ。忍者=暗殺者っていう、外国人にありがちな、大きな誤解が異世界にも!


「ウーレ砂漠で保護したんやろ?みんな、砂まみれやな。湯浴みの用意してあるから、とりあえず、汗とホコリを流してき。その間に食事の用意、しておくから。」

「さすが、朔夜。ここのオカンが板に付いてきたのぅ。」

「誰がオカンやねん!」

 セシルの言葉に、朔夜は素早くツッコミを入れる。


 息ピッタリだ!





「はぁ、それにしてもこの王宮って、なんだか見慣れた感じの造りですね。」

 湯船に浸かって、フゥッとくつろいでいるとガルシアが答えてくれる。

「この王宮はな、何代か前の王が日本の温泉をいたく気に入って、高級温泉旅館風に改造したんだよ。そっちには露天風呂もあるぜ。」

 あぁ、温泉旅館ね。だから風呂場に男湯って暖簾(のれん)がかかってたんだ。


「あの、さっきも気になってたんですけど、ガルシアさまは、なぜ日本を知ってるんですか?」

 さっき聞けなかった疑問を聞いてみる。

「王になる者はな、異世界でしばらく暮らす決まりになってんだよ。だから俺も昔、日本で何年か生活してた。まぁ、タクミの世界で言うとこの、留学ってヤツだな!そんときにゲームにハマってなぁ。ドラ○エとかF○とか、いろいろやったなぁ。」

 昔を懐かしむように語るガルシア。


「で、今はトールが留学中って訳だ。ほら、トール。洗ってやっから、こっち来い。」

「ガルシアさま、僕、自分でできますよ〜。」

 ガルシアに洗われているトールは少し迷惑そうだった。なにしろ、ガルシアは、扱いが雑なのだ。


「そういえば、ガルシアさまもトールくんも混血ってことですよね?朔夜さんみたいな猫耳とかは無いんですか?」

「おぅ、俺はヒト種の血が濃いからな。アースの人々とほとんど一緒のヒトだよ。

 トールは竜種の特性が強く出てるからなぁ。

 竜種は元々、ドラゴンの姿が本性。それが変現してヒトの姿になる。

 朔夜の夜猫族は元々がヒト型に猫耳、尻尾っていう姿だ。変現することはない。

 この世界の大多数は朔夜みたいな混血だ。猫耳だったり、犬耳だったり、トカゲみたいな尻尾があったりと、それが普通の姿だ。

 だが、竜種とか精霊種の血が濃いと、普段はヒトの姿だけど、変現(へんげん)と言って、姿を変えることができる。

 と、まぁ、そんな感じなんだが。」


 僕は軽くパニック…。


「えっと、トールくんは竜種だから、ちょっと特殊で、普段はヒトの姿だけど、変身できるってことで。朔夜さんは普段から猫耳で、その姿からそれ以上は変身したりはしないってことで。これで、あってますか?」


「おぅ、タクミはなかなか覚えがいいな。」

 ガルシアが褒めてくれる。

「タクミさん、焦らずゆっくりと理解していってくださいね。この世界は、あちらの世界とはかなり違うので、タクミさんの常識では通用しないことが多くあります。」


「僕の常識?」

「はい、常識というのは、そこに住む人々が共通認識として持っている知識のことです。例えば、日本では成人男性に猫耳は無い!は常識ですよね。ふふっ。

 タクミさんがいた世界とこの世界では、住んでいるヒトも世界の成り立ちも、何もかも違っています。だから、タクミさんの常識は、ここでは非常識ということが多くあるでしょう。

 この世界で暮らすために、少しずつでいいので、この世界のことを覚えていってくださいね。」


 子供らしからぬ発言に、思わず聞いてみる。

「あの、トールくんって何歳なの?」

 まさか、もしかして僕よりずっと年上とか?僕の常識は、ここでは非常識って言ってたし。

「ふふっ、僕は普通に子供ですよ。今年8歳になります。」


「まぁ、こいつはこれでも学者の国の王だからな!トールは知識欲が半端ねぇんだよ。」

「僕は《傲慢》ですからね。何もかもを知り尽くしたいのですよ。」



 風呂場からでると、服が用意されていた。

「これって、作務衣(さむえ)ですよね。着心地いいですね。」

「おぅ、これ気に入ってるんだよ。ここにいる間はこの服が正装だ!」

 ガルシアさんが、またドヤ顔してるよ。


 食堂へと案内された。

「あれ、セシルねえさまとエルはまだですか?」

 女湯からまだ出てきてないようだ。

「オンナはいろいろ準備があるんだよ。待ってやるのも男の努めだ!」

「ふふっ、そうですね。勉強になります。ガルシアさま。」

 ガルシアがトールに、女っていうのはな、と話している。


 ガルシアさま〜。トールくんには、まだ早いと思いますよ…。


 と、そこに、朔夜が割烹着(かっぽうぎ)を着て、現れる。

「お〜、みんな、さっぱりしたか?いま食事出すからな。待っとき。」

 その姿はまるでオカン!

 少し笑ってしまいそうになる。

 さっきは気付かなかったけど、朔夜さんも割烹着の下は作務衣っぽい服だ。

「タクミは食べられないものとか、あるか?何かあったら、言ってな?」

「僕は、食べられないもの無いので、大丈夫です。あの、気になってたんですけど、なんで関西弁なんですか?」

「なんや、そんなことか?実は自分も日本で暮らしたことがあってな。そこで、覚えたんや。」

「朔夜は日本にいた頃、関西の食べ物が気に入ったようでな、たこ焼き屋で働いてたんだぜ。そこで覚えてきたらしいんだけど。たぶん関西人が聞いたら、関西弁じゃないって言うだろうな。ガハハ。」

 ガルシアが笑って教えてくれる。


 お笑い番組を見て日本語覚えた外国人が、こんな感じかも。


「僕がいた世界を知ってるのは、王様だけじゃないんですねぇ。」

 僕はなんだか親近感を持ってしまう日本で生まれ育った僕は、日本が大好きだ。こちらの世界でも日本の話を誰かとできるのは、とても嬉しい。

「王宮で働くことになったヤツは、異世界に留学する決まりになってるからな。この王宮にいるヤツは、みんな、日本のこと知ってるぞ。」


 と、そこへセシルとエルが現れる。

 2人とも湯上りの浴衣姿(ゆかたすがた)だ。

 可愛いすぎる!!!


「田中!いやらしい目でマスターを見るのを止めなさい。サイテーですよ。」

「いや、その、僕。可愛いなと思って、見てただけで!」

「マスター、田中はロリコンです。気をつけてください。」

 いやいや、誤解ですって!可愛いと思ったけど、それは愛玩動物を愛でる感覚で!僕は普通に成人女性が好きだから!

「エルよ。田中を(いじ)めるのは止めるのじゃ。田中もアタフタするでない!本当にロリコンかと思うたぞ!(われ)は可愛いからなぁ。見てしまうのも仕方ないがのぅ。」


「あの、セシルさまは何故そんな口調なのですか?おじいちゃんみたいです。まさか見た目通りの年齢じゃないとか?」

「失礼な!我は正真正銘10歳じゃ!」

「そうなんですか。じゃあ、エルさんは25歳くらいですか?」

「女性に年齢を聞くとは失礼ですね。さすが田中。デリカシーがありませんね。」

「あっ、ごめんなさ…。」

「わたくしは746歳です。」

 慌てて謝ると、エルが食い気味に答える。


 えっ!746歳?嘘でしょ?


 目が点になってる僕に朔夜が声をかける。

「こんなことくらいで驚いてたら、身が持たんよ。あとは、メシ食いながら、ゆっくり話してや。」




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