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211話 主人公、恐怖を知るー4

 


 身体に穴があく。

 何かが身体の中を這いまわる。

 気持ち悪い…。痛い…。

 暗闇の中を悶えながら這いずりまわるイメージが、永遠に続く。


 僕、死ぬのかな…。これが死の恐怖…?


 誰かが僕を呼ぶ声がする。


『タクミ!タクミ!』


(ミライ?僕の理解者。いつも一緒にいてくれる存在。)


『タクミ!目を覚まして!』


(ミライが呼んでる…。僕が居なくなったら、ミライはどうなる…?)


『タクミ!タクミ!』


(そうだ…。僕がミライを守らなくちゃ!)


 ミライのことをハッキリと意識した僕は覚醒する。目をあけると、そこにミライがいた。そして、ガルシアの顔が見える。


「よぉ、タクミ。目が覚めたか?」


「ガルシア様…。ハッ!ワイバーンは?」

 僕はガバッと起きあがる。人型になっていて、どこにもキズは無い。

「あれっ?身体に穴がいっぱいあいて…。」


「ガハハッ!最初に来たのが俺で良かったな!」


「じゃあ、ガルシア様が治療を?」


 ありがとうございます!さすが王様!

 感謝の言葉を言おうとした僕は目が点になる。


「いや、俺は何もしてない。服を出しただけだ!裸のままだと恥ずかしいだろ?」


 はぁ?どういうことだ?


「タクミ!タクミはドラゴンだよ。魂が傷付かない限り、死なないから!穴があいても、再生可能だよ!はじめての戦闘だし、身体に穴があいたショックで気を失ってただけ!気を失ってすぐにガルシア様たちが来てくれて、ガルシア様の目の前でヒトの姿に戻ったんだよ。」


「来てくれた?ガルシア様()()?」


「ほら、あそこ」と、ミライが視線を向けた先では、大勢の討伐者がワイバーンと闘っていた。


「おぅ!久しぶりの特A級討伐だから、サーシャ達が張り切って、討伐隊を編成したぞ!来るまでに時間がかかってすまなかったな。タクミが時間を稼いでくれてたんだろ?」


 よかったぁ…。

 安心で身体からチカラが抜ける。


「治癒の術が得意なヤツラもつれてきたから、アリシアとシグルトも大丈夫だぜ。」


「あっ、ありがとうございます…。じゃ、タムは?」


「今はあっちだ。」

 ガルシアがワイバーンの方を指し示す。


「穴だらけのドラゴンを見たタムがぶちギレてな。ワイバーンに一撃いれてやるって、走っていったよ。」


「タムが…。」


「安心しろ!ドラゴンの姿は他のヤツラには見られてないから。ミライの話じゃ、ドラゴンの姿で倒れてすぐに俺とタムが来て、その後ヒトに戻ったってことらしい。」


「あい!タクミの本質はヒトなの。ヒトの姿が本当の自分だと思ってるから、気を失った時に()()に戻るんだよ。」


 そうか…。ヒトの魂が残ってるって、ソラは言ってたな。


「しっかし、よく特A級に一人で挑んだな!一人で挑んだタクミは有名人になってるぞ!ガハハッ!」


「それは…。仲間を助けるためですから。ホントはすごく逃げ出したかったですよ。あのワイバーンの雰囲気は尋常じゃないし。」


「確かにな。あのワイバーンの強さは異常だ。初めてあの特A級が出現した時は、町ひとつと、大勢の犠牲が出た。でも今は討伐隊を編成して討伐することになってるから、大丈夫だ。じきに討伐されるだろう。シグルトもサーシャに連れて行かれたぞ。あの辺りで闘ってる。」


「シグルトが…。」


「おぅ!タクミが怖さを教えてやったんだろ?慎重に闘うようになったみたいだ。これから、いろんなものを克服していく必要もあるが、成長できたと思うぞ。」


 シグルトが成長できたのなら良かった。でも、アリシアは…。


「アリシアはどうしてますか?」


「それが…。目が覚めないらしくてな…。会いに行くか?」


 アリシアはここから少し離れた作戦本部で治療を受けているらしい。キズはふさがったのだが、意識が戻らないのだという。僕は急いでアリシアの所に向かう。




 アリシアを診てくれていたのは、朔夜だった。

「久しぶりやな。タクミ。」


「朔夜が治療を?アリシアの意識が戻らないって聞いたけど…?」


「あぁ。キズはすっかり治癒完了や。傷付いていた内臓も再生完了。何も問題ないはずなんやけど、目が覚めない。パートナー精霊も出てこないところをみると、精神的な衝撃が原因かもしれん。」


 精神的なもの?パートナーのラトニーも出てきてない?


 僕はドラゴンの瞳を発動する。

 たしかにアリシアの周りの精霊が不安定になっているようだ。僕はラトニーに話しかける。


「ラトニー、ラトニー、もう大丈夫だ!出てきてほしい。」


 僕は周りの精霊のチカラを借りながら、ラトニーに呼びかける。すると、アリシアの左手が光った。


「タクミ!助かったのである。具現化できなくて困っていたのである!」


「ラトニー、アリシアが目覚めないんだ。ラトニーが呼んだら目覚めるかも。僕もミライの声で目が覚めたから。」


 パートナー精霊と使用者には、強い絆がある。ラトニーの声ならアリシアに届くはずだ。


「アリシア!アリシア!起きるのである!もうワイバーンはいない。大丈夫なのである!」


 ラトニーは必死にアリシアを呼ぶ。


「うっ、うん…。ラトニー?」

 アリシアの目が覚めたようだ。

「あっ!ラトニー!無事なの?」


 アリシアの第一声はラトニーを心配するものだった。アリシアはメタリックボディの流動体を抱きしめて、泣いている。


「ラトニー…。ラトニーが助けてくれた。ありがとう…。そして、ごめんなさい。」


「アリシア!目が覚めて良かった!どこか痛いところはない?大丈夫?」


「タクミ…。私は大丈夫。ラトニーが助けてくれたから。」


「ラトニーが助けた?」


「うん。ディルに襲われて防御結界が破られた瞬間、あのディルは私の心臓を狙っていた。それをラトニーが身体を張って、遮ってくれたの。そのディルがお腹に食いついたんだけど、ラトニーがいなかったら心臓に穴があいていたわ。王宮にも連絡していなかったから、心臓に穴があいていたら、死んでた。それに、助けてくれたラトニーは、私の目の前で消えてしまって…。」


「そういうことか!ラトニーはその衝撃で具現化できずにいたんやな!アリシアはラトニーが消えたと思って、精神的にショックを受けたんや!」


「だから、目が覚めなかった?」


「私、ラトニーがいなくなっちゃうと思ったの。私はラトニーの言うことを聞かなかったのに、ラトニーは私のことをかばってくれた…。そんなラトニーが居なくなるなんて耐えられない。」


「大丈夫なのである。我輩はアリシアとずっと一緒なのである。」


「ごめんなさい。私、自分勝手だったわ。あまりにも上手くいってたから、調子に乗ってた…。自分の思い通りにならないものなんて、いっぱいあるはずなのに。そんなもの無いって思ってた。」


 アリシアの心にも変化があったようだ。後はラトニーが彼女を良い方向に導くだろう。


 ワイバーンを無事討伐できたら、アリシアとシグルトにはキチンと事情を説明しよう。ラトニーとデュラハンとは守秘の約束をしているが、アリシアとシグルトにも話すべきだろう。今の二人ならきっと理解してくれる。言葉では理解できないものってある。体験したからこそ分かるものが、この国にはあった。


 カシムが、ガンガルシアに来てほしいと言っていたのは、コレを体験させるためだったのだろう。




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