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209話 主人公、恐怖を知るー2

 


 穴から出てきたのは、巨大な翼竜だった。


 ドラゴンに似た姿。しかし尻尾が、ヘビの頭のようになっている。シグルトが言っていたが、これがワイバーン?


 しかも、このワイバーンには、その尾が8本もあるのだ。

 雰囲気が尋常ではない。ものすごいプレッシャーを感じる。少しでも動けば、殺られる。そんな感じがする。


 自分がドラゴンであると分かってから、こんな感覚を感じたことはない。ドラゴンは精神耐性が高い。だから、何事にもあまり動じなくなると言われていたが、その僕が動揺している。


 怖い。いますぐ逃げたい。そう感じているのだ。


「なっ、何よ、これ。仲間?いえ、ドラゴンじゃない…?」

「…。これ、ワイバーン。だけど何か違う…。」


 アリシアとシグルトも、ワイバーンの違和感に気付いたようだ。


 あまりの恐怖にアリシアが走り出す。


 ダメだ!いま動いたら!


 走り出したアリシアに向かって、ワイバーンの8本の尾のひとつから何かが放たれる。


 危ない!

 僕はアリシアをかばう。


 僕の身体に何かが突き刺さる。ドラゴンの防御能力は最高のはず。その僕の身体に傷をつけたのは、小型のヘビのような生物だった。刺さったまま、身体の中へ侵入しようとしている。


「いやーっ!!!」


 アリシアの悲鳴がする。アリシアを見ると、防御結界を突き抜けて、小型のヘビがアリシアの腕や腹に食い付き、身体の中に入ろうとしていた。


 しまった!全てを防ぐことはできなかったのか!それに防御結界が破られた?


「タクミ!いまガルシア様を呼んだだよ!アリシアはオラが診るから、タクミはシグルトを守るだ!」


 隠れていたタムとミライが飛び出してきた。


 ミライは僕の頭の上に乗る。

「タクミ!あれは特A級のワイバーンだよ!過去に数回しか現れたことは無いけど、そのどれも、ものすごい数の被害が出てる。マズイよ。あれは…。その食いついてるヘビみたいなヤツは、ディル!炎で焼けば離れるから、自分で炎出して!」


 自分で自分の身体に炎を吐くの?

 嫌だが仕方ない。このディルに身体を食い破られるのは、もっとイヤだ。


 僕が炎を吐くとすぐにディルは離れる。僕はすかさず地面に落ちたディルを焼却する。


 シグルトはそれをジッと動かずに見ていた。獣人の本能で、動いてはいけないと分かっているようだ。


 僕はドラゴンの姿からドラゴノイドに変現して、シグルトにハルバードを渡す。


「…。タクミ?タクミがドラゴン?」

 少し混乱しているようだ。

「黙っていてごめんね。でも、今は事情を説明してる時間はない。あのワイバーンから、逃げなくちゃ。あれはヤバイ…。」


 僕の真剣な表情に、シグルトは黙ってコクリと頷く。


「アイツのディルは、防御結界も突き破る。叩き落として、炎で焼くしかない。いいね!」


 ワイバーンは悠然としている。

 僕達のことなど、何とも思っていない。動いたから攻撃した。それだけのようだ。


 怪異と呼ばれる怪物は人を襲う。しかし、このワイバーンは人を見ても、自ら襲ってくる気配はない。


 もしかして、これがタイジュが言っていた異世界の異形のモノ?

 ワイバーンは、こちらの動きをよく見ている。ドラゴンによく似た頭と8本の蛇の頭。それぞれがこちらを見ている。前も後ろも全てをみているワイバーンには、隙がない。今すぐ攻撃する気は無さそうだが、逃がす気も無いようだ。


 僕とシグルトは警戒しながら、タムとアリシアに近付く。移動する僕ら目掛けてディルが飛んでくる。それを弾き飛ばしながら、走る。


 シグルトの腕にディルが数匹食い付いたが、炎で引き剥がして、焼却する。


「アリシアのケガはどう?」


 防御結界を破られたショックと、ディルに身体を食い破られる感触に耐えられなかったアリシアは気絶している。


「腕のキズは大したことないだが、腹のキズが…。無理矢理ディルを引き剥がそうとしたから、内臓が傷付いてるだよ。オラはあまり、治癒は得意じゃないから時間がかかるだ。」


 アリシアのお腹のキズを押さえているタムの手から、血があふれている。


 僕は、治癒の術を習っていない。

 くそっ、こんなことならちゃんと教えて貰うんだった。


 自分には防御能力があるから、大丈夫だと思い込んでいた。仲間を助けるためには、それだけじゃダメなんだ。


 出来ることが多い方がいいだろ?って誰かに言われた記憶があるが、本当にその通りだ。


「このキズでは、アリシアは動かせない。ここで時間を稼ぐしかないだよ。ガルシア様もいつ来るか分からないし。」


 今すぐここから逃げたい。その一心だが、そういうわけにもいかないようだ。アリシアを守らなくては!


「シグルト、僕がヤツの気を引く。君はタムとアリシアを守ってくれ。」


 僕の言葉に、シグルトは素直に頷く。

 ハルバードでも倒せない相手がいること。挑んではいけない相手がいることを、ようやく理解したようだ。


「シグルト、ディルが飛んできたら一度ハルバードで弾くのだ。そうすれば、防御結界で防げる。」

 デュラハンがシグルトに助言している。パートナー精霊は一度受けた攻撃を分析し、回避行動を模索する。ディルを防ぐための最善の手段がそれなのだろう。


 タムと碧は、アリシアの治癒に集中している。ここはシグルトに任せるしかない。


 僕は覚悟を決める。

 出来るだけ、この場所からあのワイバーンを引き離す。勝てるとは思えない。僕は戦闘の素人だから。

 それでも…。

 それでもやらなくてはいけない。


 仲間を守るために!




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