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208話 主人公、恐怖を知るー1

 


 討伐者として、討伐をすること数日。

 チームとしての討伐にも慣れて、アリシアとシグルトの行動も予測できるようになった頃。


 今日、僕はある作戦を実行することになっていた。それは、アリシアとシグルトに真の恐怖を教えること。


 あの日、ラトニーとデュラハンに頼まれたことをついに実行するのだ。


 作戦はこうだ。

 今日、討伐に行くのは周りに何もない草原。草原と言っても、草はほとんど生えてないが…。

 そこで、まずはタムがこっそり幻術を展開して、周りを見えなくする。


(タムが幻術も使えて良かった!さすが万能!)


 そこに僕がドラゴンに変現して、現れる。僕とタムがドラゴンに倒されたような幻術を見せて、アリシアとシグルトの二人だけで、ドラゴンの僕と戦ってもらうというシナリオだ。


 普通なら幻術が展開された時点でパートナー精霊であるラトニーとデュラハンが警告するが、今回は協力者なので、警告はしない。


 僕の姿を見たアリシア達はきっと、王宮に連絡するだろう。連絡を受けたガルシア様とサーシャが来る前に、僕が二人を叩き潰すって作戦なんだけど…。


 ラトニーとデュラハンは、ドラゴンにはどんな攻撃も効かない。それを体験させて、世の中には絶対勝てない相手がいるということを教えてほしいと言っていた。


 しかし、僕はドラゴンの姿で戦闘したことはない。それにアリシアが使った炎柱が上がる術式にも耐えられるのか分からない。


 不安要素はいっぱいだが、出来る限りの準備はした。

 他のチームが来ても大丈夫なように、ガルシア様とサーシャに実際に来てもらうことになってる。


 ガルシア様は面白そうだからという理由で二つ返事で了解してくれた。サーシャもシグルトの様子が見たいというので、来てくれる。二人がいてくれるなら安心だ。怪異と間違えられて討伐されるなんて、冗談じゃないからね。


 さぁ、後は実行するのみ。

 僕とタムは、タイミングを見計らっていた。




 周りを警戒しながら、草原を歩く。

 僕はこっそりドラゴンの瞳を発動させて、周囲に異常がないことを確かめる。そして、タムに目で合図をした。


 すると今まで明るかった空間が突如、モヤがかかったように暗くなる。


「なに?何が起こったの?ラトニー?」

 アリシアがラトニーに、不安そうに聞いている。

「我輩にも分からないのである。」

 ラトニーは作戦通り、知らないフリをしている。


 この暗闇を利用して、僕はドラゴンに変現する。


「うわっ!」

「ぐあっ!」


 僕とタムの叫び声が聞こえる。


 よしよし、これも作戦通り。


「なに?何が起こったの?タクミ?タム?」


 ここで暗くなっていたモヤが晴れる。そして、ドラゴンの僕、足元には人型の僕とタムの倒れた姿がアリシア達には見えているだろう。


「なっ、これは?ワイバーン?」

「……。違う。ワイバーンの尻尾は蛇の頭のようになっているはず…。」


 二人はとても困惑しているようだ。


 僕は手始めに、ドラゴンの炎の息(ドラゴンブレス)を吐く。それを二人は防御結界で防ぐ。


「危ないのである。この炎がもう少し強かったら、防御結界では防げないのである。」


 ラトニー達とは、打ち合わせ済みだ。防御結界で防ぐことができる程度の炎にしている。


「ラトニー、あれは?まさか?」

「ドラゴンだと思うのである。王宮に連絡するのである。」

「ドラゴン?!ホントにいたなんて…。これはチャンスね。」

 アリシアの目が輝く。

「連絡はダメ!ドラゴンは防御能力最高クラスって聞いたことがあるわ。試してみたい術式がいっぱいあるの。何とか捕獲できないかしら?」

「アリシア、討伐対象以外のモノは、王宮に連絡する決まりなのである。」

「私の崇高な研究のためなら、決まりなんて関係ないわ!」


 !!!

 僕はアリシアの本音に驚愕する。


 やっぱりそれが本音か…。決まりより自分が優先なんだね…。

 アリシアに感じていた不安は、これだったんだ。アリシアはいつか、自分のことを最優先するようになる。そして、興味の対象が人になった時、アリシアは人も研究材料にするのだろう。


 でもね。それだけはダメだよ。してはいけないことって、どの世界にもある。そして、挑んではいけない存在もね。それを教えるあげるよ!


 僕はドラゴンの姿で、大怪我をさせないように細心の注意をしながら、二人に襲いかかる。


 シグルトはハルバードで殴打してくるが、僕にとっては何かが触れているな、くらいの感じだ。


 この姿って、ホントすごいな。


 アリシアには、あえて術式展開する時間を与える。トゥトゥーレを焼き付くしたあの術式を展開しているようだ。


 僕はアリシアが展開した術式の上に乗る。

 ものすごい炎があがるが、全然ダメージはない。


「私の最高術式も効かないなんて…。」


 まだだよ。アリシアとシグルトには、少し痛い思いをしてもらうよ!


 僕は腕の鱗を分離させて、二人を追尾させる。当たると爆発する仕組みだ。


 アリシアの武器は鉄扇だ。防御主体の武器だが、攻撃も可能だ。アリシアは扇を閉じた状態で、鱗を叩き落としている。


 でも当たっただけで爆発する仕組みだから、無傷では済まない。


「アリシア、もう撤退するのである。ドラゴンには勝てないのである。」

 ラトニーがアリシアに忠告する。


「不意討ちだから勝てないだけよ!作戦さえ立てれば、勝てない相手はいないわ!」

 アリシアは、ラトニーの意見を受け入れない。


「敵は突然襲ってくるモノなのである。そこにはルールや決まりがないのである。それに…。決まりを守らなくていいと言ったのはアリシアなのである!闘うとは、常にチカラとチカラの対決。そこにルールなんて無い!アリシアが勝てないのはチカラが無いからなのである!」


「私にはチカラが無い?だから勝てない?」

 アリシアの表情が変化する。



 一方で、シグルトは自分が傷付くことも構わずに、突っ込んでくる。当たると爆発する鱗を自分が傷付くのも構わずに片っ端からハルバードで叩き落とすから、キズだらけだ。身体のあちこちから血が流れている。


 僕は尻尾を振り下ろして、シグルトをハルバードごと、吹っ飛ばす。それでも何度も挑んでくる。


 いい加減、退くとも覚えた方がいいよ!

 血を流しながら、同じことを繰り返すシグルトに、なんだか怒りを覚えた僕は、ハルバードに狙いを変える。シグルトはハルバードに執着がある。それなら、そのハルバードを壊してあげるよ!


 ハルバード目掛けて、ドラゴンの炎を吐く。その熱さに、思わず、シグルトはハルバードを手から離す。

 さすがサイゾウの品。僕の炎で溶けないとは…。

 僕は地面に落ちたハルバードを踏みつけて、シグルトからハルバードを取り上げる。


 ハルバードを失ったシグルトの左手が光り、デュラハンが現れる。

「シグルト、撤退を提案するぞ。ワシはハルバードより、シグルトが大事だ。」


「イヤだ。ハルバードを取り返す!そして闘う!」


「ハルバードを取り返せるのか?ハルバードがあっても勝てない相手だと、もう分かっておるだろう?」


「だって、もっと闘いたい!」


「生きていれば、もっと闘える。こんなところで死ねば、もう闘えないぞ!今するべきことは何なのか考えるのだ!」


 シグルトの表情が変わる。そして、キズだらけで血まみれの自分の身体を見つめる。



 二人とも、何か感じるものがあったようだ。

 そろそろ、終わりにしようかと思った瞬間、それは起こった。


 背後の空間に穴が開いて、何者かが出てくる気配がする。

 スゴくイヤな気配だ。自分の中で誰かが激しく警告している。早く逃げろと。


 僕はこの後、最大の恐怖を味わうことになる。




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