表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

220/247

202話 主人公、アリシアの事情を聞く

 


「タクミも気付いていると思うが、アリシアには禁忌がないのである。」


 禁忌の意味は、『してはいけないこと』。

 人は生きていく上で道徳的や慣習的に、やってはいけないことがある。例えば、人が人を殺すことは禁忌だ。そういう価値観の世界で育った人は通常、人を殺すことはできない。禁忌だと思っていることをしようとすると、普通は心が拒否するはずだ。

 この世界エレメンテの唯一のルールは、人を害してはいけないこと。住む場所によって禁忌は違うが、同族殺しを禁忌とする種族は多い。


「アリシアは好奇心が優先。術式を生物に使ってみたいと思っているのである。それを止めるために我輩がいる。」


「でもさっきのオヤジさんの店では、アリシア最高って褒めていたよね?」


「タクミ。精霊はそういう存在なんだべよ。使用者の心が安定するような言葉を使うのが普通だべ。」


「アリシアは自分のことを、普通の常識ある人だと思っているのである。」


「エッ?普通の子は、危ない術式を生物に使ってみたいと思わないよ。」


「新しいものを開発した場合は、効果を確かめなくてはいけない。人に使う薬の効果を試すには、人体実験するしかない。それと同じなのである。」


「じゃあ、アリシアは術式の効果を怪異で試しているってこと?」


「そうなのである。マルクトールでは、術式の実験は何もない広い場所で発動させる。だから岩などの無機物に対しての効果しかわからない。アリシアはそれに満足できくなっていた。だから、シグルトが討伐者になると聞いて、アリシアにも討伐者になるように勧めたのは我輩である。ガンガルシアなら、怪異に対して術式を使うことができるから。」


「研究熱心というかなんというか…。」


 アースでも生物実験はある。マウスと呼ばれる動物実験が主流だ。動物が可哀想だという主張もあるらしいが、それが無くては薬の開発はできない。


「アリシアは、術式の効果をすべて知りたいと考えている。そのためには生物実験は必要だと思っているのである。」


「だから、自分のことを常識人だと思っているんだね?研究者として当然のことをしているだけで、変なことをしている感覚がないから。」


 そういうことか。アリシアは研究のためなら、生物を犠牲にしても良いと思っているんだ。だから、今日も人がたくさんいる場所で術式を展開させた。


「我輩は術式を展開すると同時に周囲にいるパートナー精霊達へ警告した。攻撃が来ると分かっていれば、防御結界を発動できるのである。」


「アリシアに君の考えは変だから変えるようにって言わないのは、ここがエレメンテだからだね。その代わりにラトニーが気を付けているというわけだ。」


「おっ、タクミもこの世界に慣れてきただな?これがタクミのいた世界なら、それはダメなことだと諭す人がいるかもしれないだよ。もしくは、合法的な方法で効果を試すように勧めるだ。でも、この世界には法律というものは無いべ。人を害していけないというだけで、それ以外は何をしても自由。それがこの世界だべよ。」


「いろいろな価値観の人がいるけど、それぞれ尊重されるってことだね?」


「んだよ。オラは自分で生き物を育てているから、生物に向かって術式を使うのは苦手だ。今日の怪異は討伐するしかないと分かっていたから術式を使用しただども、できるだけそういうことはしたくないだ。だから、オラは討伐者にはならなかっただよ。」


「僕も生き物は大切にって考えの平和な日本で育ったからね。何も殺すことないんじゃないかなと思うよ。でもそこまでしないと、こちらが危険なんだよね。」


「んだんだ。怪異は生きてる限り、必ずヒトを襲う。そういう存在なんだべよ。でもオラには生物に見えるから、躊躇してしまうだ。でもアリシアには、その躊躇がない。怪異は討伐しなくてはいけないと分かっていても躊躇してしまうオラと、研究のためなら何でもできるアリシア。どちらが正しいのかは分からないだ。それに、アリシアみたいな人のおかげで、研究が進むのも事実だべ。」


「どちらが正しいか分からない…、か。」


 たしかに、生物実験は人道的に問題がある。しかし、それによって新しいものが開発されるのは事実。難しい問題だ。


 アリシアは純粋に、自分が開発した術式の効果を知りたいだけなんだ。いまは、怪異という討伐しなくてはいけないものが対象だけど、もし怪異の居ない世界になったら、アリシアは()()で効果を試すのだろう…。


「ラトニーは、アリシアが度を越えた行動をしないように気を付けているんだね。」


「我輩達はそういう存在なのである。パートナーの精神が堕ちることのないように、かつ、人に害を与えないように、細心の注意を払っているのである。」


 アースにもそういう人物はいる。

 生き物への攻撃を躊躇しない人。そういう人は、多くの人がこれ以上はマズイだろうという境目を軽々と越えて、実行してしまう。


 アースには、ラトニーのような存在はいない。だから、世界中で通り魔的な犯罪が起きている。


 誰か止めてくれる存在がいたら、違うのに。この世界のパートナー精霊のような存在がアースにもいたらいいのに…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ