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200話 主人公、討伐者になるー1

 


「お兄さん達はどうしてここに来たの?」

 僕達と食事をしながら、アリシアが聞いてくる。


 ここは、宿屋から少し離れた酒場だ。ガンガルシア王国の討伐者はチームで動くことが多い。そのため、討伐後にみんなで食事をすることが普通になっているようだ。そうしたチームのための酒場や飯屋が、どの町の中にも多数あるという。


 この店は、元討伐者だというオヤジさんが、チームのための場所を提供するためにやっている。オヤジさんは果実酒を専門で作っていて、出てくるのは果実酒のみ。だから、食事は自分達で紋章システムから出すことになっている。


「ここは、本当に場所を提供してるだけなんだね。」


「それだけじゃないべよ。ここのオヤジさんは、新人討伐者に討伐の心得を教えてくれたり、相談にのってくれるだ。」


「タムは詳しいのね。手の甲の紋章は、ベアルダウン。タクミはセシリア。お兄さん達は、どうしてここに?」


 アリシアとシグルトは自分達で食事と飲み物を出して、果実酒を飲もうとしない。お酒は苦手のようだ。


「討伐者の仕事に興味があって、ここに来たんだよ。僕はガンガルシアに詳しくないから、友達のタムについてきてもらったんだ。」


「へぇ。じゃあ、討伐者になりたいのはタクミだけなのね。タムは討伐者でもやっていけるくらい強いのに。」


「オラはただのファーマーだべ。ホームにいるときに戦闘訓練してくれた人が、元討伐者だったからいろんなことができるだけで、本当の討伐者にはなれないべよ。」


 タムがいろいろな武器を扱えたり、術式攻撃ができるのは、元討伐者に教えてもらってたからなんだ!


「君達のことも教えてよ。アリシアはなぜ討伐者に?」


「シグルトが討伐者になるって言い出したからよ。この子はホームでは、静かに本を読んでいるようなおとなしい子だったわ。たしかに戦闘訓練の時は、なんだかイキイキしてたけど。まさか仕事にするなんて。だから、心配で。」


「前はマルクトールで術式研究してたんだよね?その仕事をやめて討伐者になるくらいシグルトが心配なの?ちょっと過保護じゃない?」


「えぇ。もちろんそれだけじゃないわよ。私、術式研究をしてるうちに、実際の威力を試してみたくなったの。」


 威力を試したくて討伐者になっただって?


「それは生物に対しての術式の効果が知りたくなったということだか?」

 タムが少し怖い顔で、アリシアに問いただす。


「うん、そうよ!だって、気になって仕方ないんですもの。この氷の術式を展開したら、どこまで凍るのかしら?って。」


「だから、今日はその術式だっただべな?」


「うん!面白かったわぁ!昆虫に形が似てたから、氷が効くかもって思ったの。その通りだったわね!」


 面白そうにクスクス笑うアリシアは、どこか狂気を感じさせる。横にいるシグルトは、話を聞いていないのか、黙々とご飯を食べている。


「シグルトはどうして討伐者になったの?」


「……………。武器。」

 シグルトは、長い沈黙の後に一言だけで答える。


「シグルトはね。あまり話すのが得意じゃないの。シグルトが討伐者になったのは、ハルバードを手に入れたからよ。」


「ハルバードって結構特殊な武器だよね?どうしてそれを選んだの?」


 アリシアは周りを気にしながら、小声で話しだす。

「シグルトは、本当は武器職人になりたくて、ガンガルシア王国最高職人のサイゾウに弟子入りしようとしてたのよ。でもそこで、このハルバードを見つけた。手に取った瞬間、自分は討伐者になるしかないって思ったらしいの。」


「ってことは、このハルバードはサイゾウの一点物だか?それは、マズイだよ。」

 タムもヒソヒソ声で返す。


「何がマズイの?」


「サイゾウの一点物は、このガンガルシアの討伐者にとって、名誉ある品だべ。欲しがるヤツは山程いるだよ。」


「えっ?そんな武器をどうやって手にいれたの?」


「それが…。サイゾウがくれたって言うのよ。これはシグルトの武器だからって。」


 なんだ、それ?


「あの噂は本当だったべか?」

「ウワサ?」

「んだ。サイゾウには武器の声が聞こえていて、武器の真の持ち主がわかるって聞いたべ。」

「ってことは、ハルバードがシグルトを持ち主だと認めたってこと?」


 そんなことあるんだろうか?


「シグルトは成人前にいろいろな国を見学して、最後にガンガルシアのサイゾウの所に行ったの。そこで、このハルバードを譲り受けた。そしてサーシャの特訓を受けたらしいわ。」


「ガンガルシア王国最強のドラゴノイド、サーシャに鍛えてもらっただか?サイゾウとサーシャは仲が良いと聞いたべ。サイゾウは武器のために、サーシャにシグルトを鍛えるように頼んだに違いないべ。」


「シグルトのためじゃなくて?武器のためなの?」


「サイゾウは武器にしか興味がないらしいだよ。」


 はぁ…。ガンガルシアの国民って、少し変わった人が多いのか?サーシャも戦闘にしか興味がないようだったし。


「じつはシグルトのハルバードには、まだサイゾウの銘は入ってないの。討伐者になって、一年以内にランキングで10位までに入ったら銘を入れてくれるって約束なんだって。」


 銘とは、武器に刻まれた製作者の名前。有名な製作者の作品でも、銘が入っているのといないのでは、価値は天と地ほどの差がある。


「んでも、討伐者になったばかりでは厳しいだべよ。」


「そうよねぇ。討伐数ランキングは難しいと思う。だから、特殊ランキングを狙ってるの。特に大型怪異討伐ランキング!大型の怪異を討伐するのは、とても大変よ。普通はたくさんのチームが協力して討伐するわ。でもそれをチームだけで討伐すれば、必ずランキングに入る。それを狙ってるの。」


 チーム討伐ランキングを狙ってる?

 なのに、討伐者じゃない僕達をチームに誘うってどういうことだ?



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