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199話 主人公、戦闘狂に会うー2

 


 僕達の見ている前で、少年が笑いながら怪異と戦っている。手には大きなハルバード。それを器用に振り回しながら、巨大なハチ型甲殻虫を殴り倒している。


 不気味に笑みを浮かべながら攻撃する姿に、周りの討伐者達は距離をとる。


「戦闘狂のシグルトって呼ばれてたけど…。ひとりでも大丈夫なのかな?」


「他の討伐者が離れろって言ってるだよ。しばらく様子を見るべ。」


 よく見ていると、少年はただむやみにハルバードを振り回しているだけではなかった。


 昆虫の節を狙っている?


 昆虫には、人間の関節にあたる節がある。そこを狙えば、硬い殻に被われた虫でもダメージを受けるはずだ。


「ただの戦闘狂では無さそうだべ?碧、あの少年の情報を教えてほしいだよ。」


「んとね~。あの子の名前はシグルト。半年前に成人して、討伐者になったばかりなの~。でも、すでに討伐数ランキングで100位以内に入ってるんだよ~。」


「100位以内にだか?半年でその討伐数はスゴいだよ。でも、なんで戦闘狂だべ?」


「んとね~。どんな巨大な怪異にもひとりで突っ込んでいくの~。周りの被害とか考えない闘い方だから、そう呼ばれてるみたい~。」


「一人なの?チームじゃないの?」

 シグルトが走ってきた方角から術式攻撃がきた。仲間がいるのでは?と思った僕は、疑問を口にした。すると、ミライがそれに答えてくれる。

「あい!シグルトには相棒がいるらしいよ。元マルクトール王国の術式研究所にいたアリシアって子とチームを組んでる。」


「えっ?二人だけ?」


「アリシアが術式で牽制して、シグルトが仕留めるってスタイルで討伐数を稼いでる。アリシアは後方支援だから、直接戦闘には加わらないらしいよ。」


 シグルトとアリシアの話をしていると、後ろから可愛い声がした。

「はぁ、はぁ、疲れたぁ…。お兄さん達は討伐者じゃないのね。私たちのこと、知らないなんて。」

 声をかけてきたのは、小柄な少女だった。走ってきたのか、声が苦しそうだ。


「もしかして、君がアリシア?」

「えぇ、そうよ。シグルトの保護者よ!」


 保護者と名乗ってはいるが、どう見ても10代後半か20代前半だ。あまりシグルトと大差ないと思うんだけど…。


 僕の不審な視線に気付いたアリシアは、自ら名乗る。

「私はアリシア。18歳よ!シグルトとはホームが同じ家族なの。私がシグルトの面倒を見てたのよ。」


「はぁ、どうも。僕はタクミ。こっちはタム。ガンガルシアに討伐者の仕事を見に来てるんだ。」


「あら?もしかして、討伐者志望なの?ちょうどいいわ。期間限定でいいから、私達とチームを組まない?」


「えーっと。君達は2人でチームなんだよね?メンバー募集中なの?」


「えぇ。シグルトがああだから、なかなか仲間になってくれる人がいなくて…。でもあなた達なら大丈夫そうだわ。どうかしら?」


 僕達がこんなノンキな会話をしている目の前では、シグルトと怪異の攻防がドンドン激しくなっていく。お互いに決定打の無いまま時間だけが過ぎている。


 すると、僕達のすぐ横にシグルトが吹っ飛ばされて来た。


「……っ。あいつ、強い。」

 シグルトが悔しそうに唇を噛む。

 僕は、そのままもう一度、怪異に向かっていきそうなシグルトを止める。


「はじめまして、シグルト。僕達が今日から仲間だよ。僕はタクミ、こっちはタム。よろしくね。だから、すこし休んで。僕達がしばらく代わるから。」


 シグルトは、僕の言葉に不思議そうな顔をしているものの、文句は無いようだ。タムを見ると、仕方ないなという顔をしている。


 勝手に決めてごめん。でもこの2人が気になるんだ。


 僕の心の声を理解してくれたのか、タムが氷の剣を取りだす。


「タクミ、ヤツは氷に弱いだよ。オラが凍らせた所を、ドラゴノイドの爪で粉砕するだ。その後、オラが焼却の術式を展開するべ。」


「了解!!!」


 僕はタムの指示どおり、ドラゴノイドに変現して、凍っている箇所を撃破していく。


 この怪異は寒さに弱いようだ。凍った箇所は粉々に砕ける。


 主要な箇所を粉砕された怪異が動かなくなったところで、タムが焼却系の術式を展開。跡形もなく、炭にする。


 それを見ていたアリシアがつぶやく。


「あなた達、ホントに強いのね…。スゴいわ!良かったわね。シグルト!これでもっとたくさん怪異を討伐できるわよ!」


「……。うん。」


 シグルトの手にはもう、ハルバードはない。武器を持っていないシグルトは、大人しそうな少年だ。笑いながら怪異と戦っていたとは思えない。


「お兄さん達はどこの宿屋なの?私達チームになったのだから、そっちに移るわ。一緒に食事でもどうかしら?」


 この子、押しが強いな…。でも、嫌な感じじゃない。宿の場所を教えると、「後で合流しましょ」と言って、アリシアとシグルトはその場をすぐに立ち去る。


「なんか元気な子だったね。タム、ごめん。勝手に仲間になるって返事して。」


「いいだよ。討伐者の事を知るためには、討伐者になるのが一番だ。それに…。あの子達のことが気になるだな?」


「うん。なんだか放っておけない雰囲気を感じてさ。」




 こうして僕は、彼らと共に討伐者の世界を体験することになる。


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