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196話 主人公、正解の無い問題を考えるー2

 


「では、みなさん。情報を整理しましょうか。」

 ライルが発言する。まとめ役を引き受けてくれるようだ。

「まず、一番解決するべきことは、紋章システムの寿命ですね。タイジュ、正確にはあと何年くらいなのですか?」


「そうだな、6年くらいかな。でも、時間はあまり残されていないのかもしれない。タクミ、タム、リオンとシオン。お前達は異常種と遭遇したな?」


「はい、僕達が遭遇したのはカルミナベアの異常種です。」


「オラが見たのは、ヤークイの異常種だったべ。」


「そうか…。この世界が不安定になっているのかもしれない。異常種の原因は、精霊濃度の異常だ。紋章システムを円滑に稼働するために、各国は守護精霊のチカラを借りて安定させている。そのバランスが崩れてきているのかも…。」


「このままでは紋章システムが使用できなくなるということですが、セシルさまはそれを防ぐために、自分を犠牲にしようとしている。

 紋章システムを動かすには、チカラの強い種族の協力が必要。エンシャントエルフ以外だと、ドラゴンなら可能かもしれない。

 紋章システムを継続するためのチームを作ることは、タイジュは反対している。

 紋章システムについての問題はこんなところですね。」


 紋章システムを動かすのは、ドラゴンでも可能かもしれない…。僕かソラなら…。


「そういえば!ソラの本体は?いまどこにいるか、タイジュなら分かるんじゃ?」


 僕が知っているソラは分身体だ。分身体ではこのシステムを動かすことはできないだろう。本体はこの世界に居ないと言っていた。戻ってくるつもりがあると聞いたが、まだ会ったことはない。


「ソラは異世界に行ってるよ。オレが紋章システムを開発して7つの国が落ち着いた頃までは、一緒に居たんだ。その後、急に、『もう大丈夫だろ?ちょっと異世界に行ってくるぞ』と言って、居なくなった。すぐに戻ってくると思ったんだが…。」


「じゃあ、ソラはそれ以来、この世界には戻ってきてないってこと?」


「こんなに長く帰ってこないのは、はじめてだ。ソラに相談したら新しい技術を教えてもらえるのかもしれないが、ソラには今までいろいろな事を教えてもらった。これ以上、ソラに頼ることはできない。この世界の事は、ここに住んでいるオレたちが何とかするんだ。」


 タイジュの言うことは、正しい。誰かに頼ってばかりではダメだ。


「では、次に呪いの問題。この世界に発動した呪いは、グールと怪異と7人の呪われし者。

 異世界の穴から現れる異形のモノは、呪いでは無かった。この世界の成り立ちを考えると、それは普通のことだった。しかし、異世界から来る怪異と混同されて全て呪いの所為だと思われている。

 そして、異世界から来るグールと怪異は、精霊王の姫を目印に来ているのではないかと、タイジュは仮説を立てている。」


 ライルのこの発言に、ガルシアが意見を言う。


「それについてだが、俺達、王も目印じゃないか?俺達呪われし者は、この世界で最も呪いの影響を受けた人物ってことだろ?王と精霊王の姫がこの世界から居なくなれば、グールや怪異は発生しないんじゃないか?なぁ、タイジュはどう思う?」


「ふむ。その可能性はあるな。精霊王は呪いの影響を最小にしようと最後のチカラを使った。本当はこの世界の人すべてが呪われるはずだったんだ。紋章を授かれる人は呪われていないのかもな。」


「それって、どういうこと?」


「あぁ、タクミも紋章を授かれなかったな。紋章を授かるってことは、精霊の加護を受けるってことなんだ。タクミがダメだったのは、ドラゴンがこの世界で最強だからだ。精霊は自分より上位の存在に加護を授けることはできないから。」


 そういうことか…。


「でも、僕はミライのおかげで紋章システムを使えてるよ。それは、どうやって?」


「紋章システムは、各個人を特定するために紋章を授けているんだ。だから、それが誰か特定できれば、紋章じゃなくてもいい。タクミはドラゴンだ。そしてこの世界にはひとりしか居ない。つまり紋章システムにドラゴンのチカラを登録して、これはタクミだと認識させてる訳だ。」


「じゃあ、王様達も個人を特定できる何かがあれば、パートナーを得ることができるよね?僕のミライみたいに人工精霊で!」


 僕の案に、ジルが賛同してくれる。


「うぅむ。タクミ!その案は面白いな。ただし、人工精霊を生み出すには強いチカラが必要だ。王達にはそんなチカラは無い。」


「王達は、各国のチカラの強い精霊と特別に契約してるんだよね?だから、紋章システムに似たチカラが使える。ですよね?ガルシア様。」


「おぅ、自分の国の中でしか使えないけどな。」


「僕はミライが居てくれることが、とても嬉しいんだ。ひとりじゃないって思えるから。だから、王様達にもそういう存在がいた方がいいと思うんだ。その精霊のチカラを使えないかな?」


「なに?そうか…。たしかにチカラは強いな。タクミの協力があれば、可能かもしれないな。」

 ジルは思案している。


 それを見ていたタイジュは、目を細める。

「やっぱり、仲間ってのはいいな…。どんどんいろんな案が出てくる。オレには考えつかないものが…。」



「ちょっと待ってよ!」

 誰かが大きな声を出す。リオンだ。

「呪いが無くなるのが一番だよね?精霊王の姫と7人の王がこの世界から居なくなれば、呪いが無くなるかもしれないんでしょ?」

 リオンは、呪いを無くすことが一番優先のようだ。


「でも精霊王の姫が居なくなったら、異世界への穴が開くよ。それに、この世界から居なくなるって、どうするつもり?」


 リオンは、僕の質問には答えずに、タイジュにある事を聞く。

「タイジュ、王妃の一族は何処から来たの?」

「お前も気付いてると思うが、アースだよ。」

 リオンは、やはりという顔をする。

「じゃあ、アースに移住してもらえばいいんだよ。元の世界に戻ってもらうのが一番だ。」


「デモ、そんなことをしたら、今度はアースで怪異が発生するのデハ?僕は反対デス!それに、王達が居なくなれば、この世界から本当に呪いが無くなるのデスか?それより、アースで紋章システムを開発して、グールの発生を減らす方が先デス!」

 カシムが抗議する。


 みんなの意見が対立している。

 これじゃ、全員一致の答えなんて絶対無理だ。




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