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186話 主人公、精霊王の秘密を知るー4

 


「はぁ、はぁ。もう無理だな。これ以上は抑えられない。」

 国中の民を城に転移させた精霊王は、苦しそうに悶える。


『※※※※、何が起こった?精霊達が震えておるぞ。』


 何者かの声だけが聞こえた。


「アズマか?王妃の核が砕かれた。ボクも長くは保たない。国民をできるだけ城に避難させた。ボクの国を襲ったヒト種までは救えないけど。」


『なんだと?お前の秘密を知る者がいたのか?』


「どうやって知ったのかは分からないけど、あのヒト種の姫に憑いていたよ。姫を操って、王妃の核を…。」


『!!!』


「アズマ。ボクが居なくなったこの世界に何が起こるか、ボクにも分からない。だから君は、自分の国に強固な結界を張るんだ。そして、世界を救ってほしい。」


『いや!私が行く。何か手があるかもしれない。』


「核が砕かれたって意味、君なら分かるだろう?それに、君のチカラはもう…。君も最愛の人と…。だから頼む。世界を…。」


『そうだ、ソラ!ソラはどうした?』


「ソラはたぶん、また異世界に行ってると思うよ。ソラは自分の好奇心が優先だから。何か面白いものを見つけたんだよ。」


『あいつは!肝心な時に!』


「アズマ。ボクがこの世界から消えたら、異世界への穴が開く。そこから、様々なモノがやって来るだろう。そして、ボクが今まで抑えていた呪いが発動する。あの時、ソラに警告されていたのに…。最後のチカラで、この呪いを最小限にまで抑え込む。だから、頼んだよ。アズマ。」


『おいっ!※※※※、思念通話を閉じるな!おいっ!』


 アズマとの通話を一方的に終了させた精霊王は、遥か上空に移動する。


「はぁ、はぁ。アズマ、ごめんね。もう時間がないんだよ。でも、この呪いだけは…。」


 精霊王の思念が伝わってくる。


『王妃を受け入れた時に覚悟したんだ。あの世界のヒト種を受け入れるということは、この呪いも受け入れるということ。このままの状態でこれを解き放てば、この世界全員が呪われてしまう。それだけは避けなくては!』


「できるだけ最小に。ボクの最後のチカラで…。」


 精霊王はひどく集中している。最後のチカラを振り絞って、何かを抑えようとしている。


「ダメだ。これ以上は…。ごめんよ。これから生まれる人々の中に、呪いの影響を強く受けた者が生まれるだろう。でも君達のおかげで、この世界は存続できる。」


 精霊王の頭上に大きな黒い穴が開く。


「あぁ、異世界の穴が開いてしまった。もう本当に時間がない。ソラ!◯◯◯のことをお願い。あの子のチカラはボクが今まで封印してきた。ボクが消えた後、あの子にはとてつもないチカラが発現するだろう。でも、それではあの子が破滅する。半分ヒトなのだから。大き過ぎるチカラであの子が破滅しないように、あの子を…。お願い…。頼んだよ、ソラ!」


 この言葉を最後に、精霊王は王妃と同じように、淡く光って霧散した。





 精霊王の居なくなった世界は、暗黒に包まれる。陽の光が当たらなくなり草木は枯れ、世界中が極寒となる。


 異世界の穴からは、不気味な生物が這い出てきて、人々を襲った。


(これが真実…。これが空白の歴史の始まりなのか…)





「トゥーラ、城の外で何が起こっているの?それに…、父さまと母さまは?」


 精霊王の姫が泣きながら、トゥーラに訴える。そんな姫に、意を決して真実を告げる。


「姫さま、王様と王妃様は亡くなりました。この世界から消えてしまったのです。」


「うっ、ウソよ!父さまが死ぬなんて!父さまは偉大な方よ!」


「ヒト種の姫は何者かに操られておりました。そして、王の弱点を知っていた。王は王妃と魂を共有していた。王妃の心臓が止まれば、王も生きていられない。それを知っていたのです。」


「えっ……。それって…。」

 姫の表情が変わる。何かに気付いたようだ。


「まさかと思いますが、姫さまが誰かに話したのですか?」


「△△△に王妃様はいつまでも若いままなんですねって聞かれて…。父さまと母さまはいつまでも一緒だからって答えたわ。」


「そうですか…。あの姫に憑いていた何者かは、そこから推測したのでしょう。いつまでも若い王妃。なぜ若くいられるのか?それは王と命を共有してるからだと。」


「じゃあ、私が父さまと母さまの秘密を話したから…。だから、2人は…。」


「今はそれを悔やんでいる時間はありません。この状況をなんとかしなければ。」


「△△△は?いま何をしているの?」


「操られていたとはいえ、王妃様を刺したのです。従者と共に客室に監禁してあります。ヒト種の姫が犯人だということは、数人しか知りません。」


精霊王の姫は涙を拭うと、立ち上がる。


「私、会いに行くわ。確認したい事があるの。」






 数人の従者と共に一室に入れられたヒト種の姫は、血にまみれた自分の手を凝視していた。


「姫様、その手を洗いましょう。ここに水がありますから。」


「いいの…。何があったのか、いえ。私が何をしてしまったのか…。」


 誰かがドアをノックする。入ってきたのは精霊王の姫だった。


「◯◯◯様!王様と王妃様は?」


「もう居ないわ。この世界から消えてしまった。」


「そんな…。私、私が…。」


「いいえ、あなたは悪くないわ。操られていただけですもの。」


 精霊王の姫は、ヒト種の姫の従者をジッと見る。そして、1人の従者に目を止めると、その従者の腕をとる。手に布を巻いている。


「あなた。その手はどうしたの?ケガしたの?」

「さっき、手の平を切ってしまって…。」

「まぁ、可哀想に。手当てしてあげるわ。見せて?」

「いえ、それは…。」

「どうして?見せられないの?」


 精霊王の姫は、強引に布を取る。


「これは!」

 トゥーラは驚く。その従者の手の平には火傷の痕が。

「精霊王の紋様!」


「姫を操っていたのは、あなたね!」


「クククッ。バレてしまっては仕方ない。」

 従者の様子が豹変した。声がまるで違う。後ろに黒い影が見える。

「だが、この娘もワシの本体ではない。ただの依代のひとつ。」


「そんなこと分かっているわよ。でもいつか必ずあなたを見つけ出す。あなたには父さまが付けた目印があるから。絶対に見つけるわ。だから、今は出て行ってちょうだい!」


 精霊王の姫がそう言うと、強いチカラが姫から放たれる。そのチカラに押されて、黒い影が消える。


 そして姫の姿は変化していた。

「姫さま…。そのお姿は…。」


 今までは、王妃によく似た栗色の髪だったのが、金色の髪、不思議な色の瞳、そして、尖った耳を持つ容姿へと変貌する。


「※※※※様……。」


 その姿は、まるで精霊王のようだった。





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