14話 セシル、双子の話を聞く
あれからすぐに、月子は帰っていった。あの中学生の話を聞いてから、ものすごく顔色が悪かった。
ネットの記事なんぞ、半分は嘘だと思って見ているが。あの様子だと、父親の事件は本当の事のようじゃのぅ。
あの大輝の姉、サヤカと呼ばれていた女の子。『この世から居なくなった方がいい』か。死ねと言うておるのかのぅ。この国の子供は、そこまで愚かになっておるのか …。きっと本人達はちょっとふざけて言っただけ、と答えるだろう。彼女達のタチが悪いところは、ちょっとふざけて言っただけのことを実行しているところじゃな。
そんな事が日常的に起こっておる。この国の学校という場所は、どうなっておるのかのぅ。文部科学省や教育委員会とやらは、機能しておらんな。
なんだか情けない気持ちで、ポツンとベンチに座っていると、リオンとシオンが通りかかる。
「セシルさまじゃん!何してんの?」
「あー、もしかして僕達のこと待っててくれた?」
「いや、そういう訳でも無いが。」
素直に口に出してから、気づく。
しまった!リオンとシオンは極度の"かまってちゃん"だったのぅ!
「違う違う!そう!2人を待っておったのじゃ!」
「「フーン、何か嘘くさいけど。」」
2人がジッと見てくる。
話題を変えようと、我は明るく言う。
「で、今日の陽子の様子はどうじゃった?そろそろ何かわかったじゃろう?」
仕方ないから、待っててくれた事にしてあげよう!と言いながら、2人は調査した結果を報告してくる。
「まず、陽子の状態だけど。憑かれているけど、普段はグールが漏れ出ることはない。ただ、感情の起伏、特に怒りだね。何か怒りを感じることがあると、グールが出てくる。アレはグールとヒトが、共生、共存しているとみて、間違いない。」
シオンが詳しく解説してくる。
そう、この2人は普段は不真面目に装っているが、エレメンテでは、グール研究の第一人者なのだ。
「グールが出てくると、物理的な現象が起こるようだ。先日も体育館の窓ガラスが割れるっていう事件が起こったんだけどね。学校では、古くなってヒビが入っていたガラスに小石か何かが当たって割れたってことになったらしいけど。割れたの、2階の窓の半分以上だよ。そんなことある訳ないのに。」
「どうやら、陽子の母親が夜、男と歩いているところを見た子がいて、お前の母親って不倫してるんだろう?と、揶揄ったようだよ。くだらないね。2人で歩いていたくらいで不倫って。陽子が、お母さんはそんな事しない!って叫んだと同時に窓が割れたんだって。」
先ほど、あの子らが話していたのはこの事じゃな。
「でね。あとは、北条って女が、陽子のことを一方的に嫌ってるみたいで。」
「あぁ、北条サヤカだな?」
「あれっ?セシルさま、知ってるの?」
「北条サヤカの弟、大輝と同じクラスでな。」
「そうなんだ。大輝のこと知ってるなら話が早いや。北条サヤカの母親は、サヤカを連れて北条の父親と結婚したらしくって。」
「サヤカは北条の父親とは血が繋がってないということか?」
「そう。大輝だけが、母親と父親の子供。だから、サヤカの母親は、サヤカにものすごく厳しくしてるって。北条の家の恥になる様なことはするな、クラスで一番を取りなさいってね。家庭教師とかもいるらしいよ。」
「でも、そこへ陽子が転校してきた。陽子はかなり勉強ができるようで、サヤカは一番の座を取られちゃったんだな。自分は家庭教師がいて、みっちり教えてもらってるのに、勝てない。しかも相手は、父親のいないシングルマザーの家庭の子供。塾も行っていない、家庭教師もいないのに、自分より上。サヤカのプライド、ズタズタってね。」
「それから陽子の事をいろいろ調べては、陽子が学校に来れなくなるように画策してる。母親が不倫してるって話を言い出したのも、サヤカのグループの一人だよ。」
ネットで、あの事件を執拗に調べたのは、それが理由か。本当に陽子の父親だったとは、サヤカも思ってなかったじゃろうな。
サヤカはそこまでして、陽子に居なくなってほしいのか。本当に、転校するか、死んでほしいと思っておるのじゃな。
「サヤカの陽子に対する攻撃は、これからますます酷くなるのぅ。」
はぁっと、ため息をつきながら、我が言うと、先程の話を聞いていないリオンとシオンが、不思議そうな顔をする。
「まぁ、今でも相当なものだよ。陽子に告白した先輩がいたらしいんだけど、あんなカッコ悪い先輩とは付き合えない!そう陽子が言ってるって、根も葉もない噂を流したり。学校祭の係を押しつけて、全然協力しなかったり、ね。陽子をかばうと自分が標的になるから、ほとんどの子達は陽子を無視してる。陽子はクラスで孤立してるよ。」
動きがあるのは、明日かのぅ?父親の事件を知ったサヤカがどのような態度をとるか?
「リオン、シオン!明日も頼むぞ。異変を感じたら、すぐに連絡するのじゃ!」
我の真剣な顔に何かを感じた双子は、今までに見た事ないくらいの笑顔で、すぐに返事する。
「「りょ〜かい!」」