11話 主人公、おじさん扱いされる
公園から出ると、千代さんが待っていてくれた。
「グールの香りがほのかにするね。またグール狩りをしないとねぇ。」
なんだか、のんびりな口調。
「千代さん、とりあえずセシルねえさまに報告です。急いで戻りますよ。」
トールが厳しい顔つきで言う。
マンションに戻ると、セシルの部屋に見慣れない2人が居た。
「戻ったか、田中よ。この2人と会うのは初めてじゃな。この2人は…。」
セシルが紹介しようとすると、
「へぇー、これがタクミ?普通じゃん!」
「ホントにドラゴンなの?変現してよ!変現!」
2人が食い気味に話し出す。
「えぇーい!お前ら、うるさいぞ!少しは落ち着きというものをじゃな!」
「ねぇねぇ、タクミって何歳?」
「先祖返りってホント?」
セシルの話は聞いていないようだ。
なに?この自由な2人は?見た目は中学生くらいの、とてもよく似た2人だ。双子かな?
「リオン、シオン、いい加減にしなさい!」
エルの一喝で2人がやっと黙る。
エル、帰ってきてたんだ?
「マスター、申し訳ありません。」
エルが、シュンとなっている。
「良い。我の言うことを聞かないことは、わかっておる。だから、エルに迎えに行ってもらったのじゃ。」
「田中よ。この2人は、リオンとシオン。我の王宮で働いておる。田中の先輩じゃ。」
「はじめまして。リオンさん、シオンさん。よろしくお願いします。」
見た目は中学生でも、先輩というからには、"さん"付けだろう、と挨拶してみたが。
あれっ?反応がない?
「うわ〜、タクミって堅苦しいね〜。」
「うんうん、マジメ過ぎって感じ〜。」
「見た目、若そうだけど、中身はおじさんだね〜。」
「さん付けとか、引くわ〜。普通にリオンとシオンって呼んでよ。」
おっ、おじさんって言われた…。童顔のせいで、そう呼ばれたことないから、逆に新鮮!少し頬が緩んでしまう。
「うわっ、おじさんって呼ばれて喜んでるよ。マジ引くわ〜。変態だな。」
「いやっ、違いますよ。僕、35歳ですけど、おじさんって呼ばれたことなかったから、新鮮で。」
2人に向かって、弁解する。
「タクミって35歳なの?」
「なんだ、全然ガキじゃん!ツマラナイの。」
見た目、中学生くらいの子達にガキって言われた。なんかショック。
「田中よ。すまんな。この2人はホビット族の血が濃くてな。見た目は若いが、寿命が長くてのぅ。今はたしか。」
「156歳です。」エルが答える。
「ホビット族の寿命は、約300年ほどじゃからなぁ。」
セシルが疲れたような顔で僕とトールを見る。
すると、そのやり取りを呆れたような様子で見ていたトールが口を開いた。
「セシルねえさま。あのグールの本体を見つけましたよ。坂本月子の姉、陽子に憑いているようです。ただ、憑いているというより、融合?共存?とにかく、今まで見た事もない状態です。」
「そうか、やはりのぅ。まぁ、そのためにリオンとシオンを呼んだのじゃ。2人には陽子が通っている中学校に潜入してもらう。陽子の近くで観察するのじゃ。良いな!」
セシルが2人を見るが、全然聞いていない。
「リオン!シオン!マスターの話を聞いていましたよね?返事をしなさい!」
「「はいは〜い。了解!」」
エルに言われて、やっと返事をする。さすが双子。見事にハモっている。
「エル、通う学校の制服は準備してあるかのぅ?」
「はい、男女の制服を用意してあります。」
あっ、あの2人は男の子と女の子なんだ。
「えぇっ?ヤダよ!僕も女の子の制服がいい!リオンと一緒がいいよ〜!」
はぁ、っとエルがため息をつく。
「仕方ありませんね。シオンの容姿なら女の子の制服でも大丈夫でしょう。マスター、いいですか?」
「良い良い。では、2人とも頼んだぞ。」
「「は〜い!」」
元気な返事。
セシルもエルも疲れた顔してるよ。
この2人が苦手なんだな。
エルが2人を僕が用意した部屋に連れていくと、セシルの部屋が急に静かになった。
「田中よ。スマンのぅ。我あのノリにはついていけなくてのぅ。あやつらと話していると疲れるのじゃ。」
「あの2人はね。自分より年上の人の言うことしか聞かないのよ。セシルさま、ごめんなさいね。お役にたてなくて。」
千代が申し訳なさそうに言う。
そうか、あの2人は千代さんより年上!エルは746歳!だから、セシルはエルを迎えに行かせたんだ!
「良いのじゃ。我が頼りないから、あの2人は言うことを聞かないのじゃ。我の不徳の致すところ。」
不徳の致すところって…。セシルさまって、こういう慣用句、好きだよね。
「我、この姿に転生する前はホビット族だったのじゃ。まぁ、ホビット族と言っても、普通に60過ぎまで年を取ってから、ホビット族の血が発現してな。姿はジジイのままで、289歳で死んだのじゃよ。200年以上この口調だったから、転生してからもこの口調が抜けなくてのぅ。
あの2人は、前の我が王宮に連れてきたのでな。前の我に懐いていてのぅ。転生後の我のことは、まだ主人と認めておらぬのじゃよ。まぁ、転生しましたと言われても、すぐには納得できないのじゃろう。」
「転生ってどんな感じなんですか?前の人生の記憶があるってことですよね?」
僕は疑問を口にする。
「そうじゃなぁ。田中は伝記を読んだことはあるか?」
「有名な偉人とかの生涯を書いた本のことですか?小さい頃、何冊か読みましたよ。」
「我は物心ついた頃、そうじゃなぁ。3歳くらいかのぅ。その頃に思い出すのじゃよ。今まで転生してきた回数分だけの伝記を読んだ感覚でな。それぞれの人生で得た知識、経験が蘇るのじゃ。
どこで生まれて、何を成して、そしてどのように死んだか、をな。ただ、戦争も多かったから、殺されて死んだこともあったがのぅ。そのことも記憶しておる。」
「殺されたって…。」
「転生者は特別な力がある訳ではないからな。強大な力の前では我は無力じゃ。」
僕の不安な表情を見たセシルは、僕を安心させようとワザと明るい口調で言う。
「大丈夫じゃよ。怨みの感情は無い。感情まで受け継いでおったら、我は世界を滅ぼしておっただろうがな!」
笑いながら言うが、表情は少し悲しげだ。
「特に、すぐ直前の人生はよく覚えておるからのぅ。こうして、口調やクセが抜けなくなることもある。が、転生前と転生後は、全く別の人物じゃ。だから、前の我が死ぬと同時に前の仲間は辞めるのがほとんどじゃ。
我の王宮に残ったのは、エルとチヨとリオンとシオンの4人。それ以外は、今の我がスカウトしたのじゃ。ちなみにノアが王宮に来たのは、我が5歳の時だったのぅ。」
「…、準備できた…。」
セシルの話に耳を傾けていた僕の真後ろから、突然、声が聞こえる。
ビックリした!
ノアくん!気配もなく背後に立つのはやめて!心臓に悪いよ!
「さすがノアじゃ。仕事が早いのぅ。リオンとシオンは明日から通えるな?」
「セシルさま。まさかとは思いますが。何か不法な事を?」
「田中よ。我らは異世界の住人だ。そのままでは、困るじゃろう?戸籍を取るのに、ちょいと細工をしておるだけじゃ。ノアにパソコンを買い与えて良かったのぅ。ネット社会万歳じゃ!簡単に細工できるようになったからのぅ。」
はぁ、やっぱり何かやってたんだな。
「田中よ。ため息をつくな。我らは健全な異世界人じゃ!ちゃんと税金も納めておる。このマンションは前の我からの遺産相続じゃ。相続税をたんまりと払ったわ!前の我と今の我は祖父と孫、ということになっておる。エルが前の我の娘という設定じゃ!だから、このマンションの本当のオーナーはエルなのだ!エルに逆らうと追い出されるぞ。気をつけることじゃ。」
セシルが意地悪そうな顔で言う。
「そうです。気をつけるように!」
またもや、背後から声が!エルだ!
だから、気配もなく背後に立つのはホントやめて。
「マスター、リオンとシオンには、何かあったらすぐ連絡するように言い聞かせましたので。」
「では、リオンとシオンの連絡待ちじゃな。ノア、チヨ、エル、いつでも動けるように準備しておくのじゃ。」
セシルがそう言うと、トールが口を開く。
「セシルねえさま。ねえさまも明日は学校に行ってくださいね。月子を近くで観察してほしいのです。グールの一部が纏わりついて、不安定な状態です。月子がイジメられてるところを見ました。」
トールが厳しい顔つきで言う。
セシルは少し考えた表情をする。
「また、彼奴らか。」
僕は、公園で見た光景を思い出し、セシルに訴える。
「そうですよ!あの子たちは何なんですか!月子ちゃんのランドセルを乱暴に扱って、中の物が散乱してたんですよ。なのに、ふざけてただけって。」
「彼奴らはのぅ。恐ろしいことに、悪いことをしているという感覚が本当に無いのじゃよ。」
あの状況を思い出していた僕は驚愕する。イジメてる感覚がないって?




