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君清さんが言ったことに対して俺は耳を疑った。

後継人?つまり、俺が会社を継ぐ、ということだ。


その発表に周囲も戸惑いを隠せていない。


「ま、待ってください社長。彼は下積みもなにもなければ、まだ経営のなんたるかをも知らないのでは?」


社員さんの意見もごもっともだ。

その意見は俺も言いたい。俺には何のイロハもないし、第一そこまで責任を負う立場にはなれない。

まだ、俺は若い。


「だから大学に行ってもらう。大学で経営学を学んで来てもらう。もちろん学費は私が出す」


といった。

つまり、俺は経営学を習いに大学まで行き、会社を継げと言われる。


そんなの、無茶だ。君清さんは、きっと後先のことは考えているだろうが、俺は到底できるとは思わない。自分なんてそこまで能力が高いわけでもないし、社交性も欠けているから。


「無理です。俺には」

「無理じゃない。私でも出来るぐらいだからさ」

「いや、君清さんは最初から…」

「私は最初はなにも出来なかったよ。むしろ、最初は倒産の危機があったくらいだからね」


そ、そうなのか。

じゃなくて。


「それに、私の見立てだと君には私以上の才能があると直感が告げている。君は統率する才能があると思っている」


いや、それは身内限定であって、初めての人とか統率は出来ない。


「社長!ですが経験が浅すぎます!まだ十代ですよ?せめてあと十年待ってからでは」

「私も歳なんだよ。それに、初めからこの程度のプレッシャーをかけないと逆境には立ち向かえないぞ」


たしかに、プレッシャーをかけられた分緊張はしなくなるかもしれない。

だけれど、俺には緊張ではなく、不安しかない。


俺は、出来ない。能力や才能があるとしても、ただ、無理だと告げている。


「ですが!」

「ですが、なんだ?彼の素質は私が認めているんだ。問題はない」


ある。問題はある。

俺にはまず、やれる気がしない。未来のビジョンが見えない。

経験も何もかも浅い俺に、会社を引っ張っていくことなんかできやしないだろう。


「俺には無理です」


俺は口で否定の言葉を述べる。

だけれど、それは受け付けてはもらえなかった。


「無理や不可能という言葉は存在しない。最初は誰でも不慣れだしな」

「ですが」

「倒産したらそこまでだということだ。気に病むことでもないだろう」


倒産したらそこまで?働いている社員の皆さんは路頭に迷うことになるんだ。なぜ、そう言える?

おかしい。君清さんは、おかしい。


あと、なぜ空は黙って見ているだけなのだろうか。なにも口出ししないのか?


「……おかしいですよ」


気がつくと、口からそうでていた。

俺はもう後には戻れない。俺は半ば自暴自棄になる。


「倒産したらって、よくそんな風に気楽に言えますね。倒産したら、そこまでなんですよ。未来ある会社が、一人の手によって潰され、そして、社員の皆さんは路頭に迷うし、恨まれます。社長というのは社員さんの気持ちを考えなければならないのではないですか」


もう、考えるのはやめた。

自分の思っている気持ちをただ、ぶつけるだけ。空と別れろと言われても悔いはない。

俺は言いたいことを言った。諦めきれないけど、別れろと言われたら諦める。そこまでだ。


「……ふっ」


と、君清さんが笑い始める。

社員さんはそれに驚いていたようで。


「ふははは!やはり、私の見立てには間違いはなかった。君はやはり人の上にたつ才能はあるよ。うん、私が保証しよう」

「へ?」

「もちろん、君に後継人になってもらうけどそれは数十年未来の話だ。経営学を学んでもらうし、まずは下積みもさせるから安心しろ。私はまだ引退はしないさ」


と言った。

そういや、君清さんはいつ引退するかとか、いつの話とかは具体的に言っていなかったような。


……あれ?俺の勘違い?


「やはり、千代の子だ。千代とそっくり。はあ。空の彼氏が君でよかったよ」

「お父さんやっぱり試してたんだね……」


……恥ずかしいっ!

なんだよ、俺の勘違いで、試されていただけか!あんなに思いつめたのは俺の黒歴史になりそうっ!


で、でも未来は俺が継ぐということ、だよな?

俺が、この会社を?


まあ、令嬢の婚約者だから、そうなるのは当たり前かもしれない。だからこそ、試したのだろうか。

どちらにせよ、ちょっと恥ずかしい気分である。


気づかなかった俺も間抜けかもしれないけどね。






「あ、会長。卒業おめでとうございます」


会長の姿を見かけたので挨拶をしにいく。

そう言えば、このパーティは会長の卒業記念パーティーだ。いるのは当たり前で、しかも今回の主賓でもある。


「うむ。未来の民天堂、及び西園寺グループの社長。挨拶ありがとう」

「……」

「まあ、空と婚約するということはそういうことだ。君清さんには跡継ぎが娘しかいないからな。その娘さんも祖父から反対を受けているのだ」


そ、そうなのか。

複雑な家庭事情があるんだな。俺は詳しくは聞かないことにした。


「まあ、不安はあるだろうが頑張れ。私もいずれかは跡を継ぐつもりでいるから、お前とは競争相手ともなり、また、協力するときもあるだろう。高校の馴染みとしてなるべく甘く見るようにするからな」


と、宣告を受ける。

そっか。会社というのは競争社会なのかもしれない。四之宮グループと西園寺グループ。どちらも有名で、日本の経済を担うグループだ。


その名を貰うということは、覚悟が必要、ということだろう。


……まずは、覚悟を決めなければな。俺が。









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イラストレーターとユートゥーバー 新しいラブコメ小説を投稿してみました。是非とも読んでみてください。
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