非モテ集団クライシス
「もう、人生やっていけねえよ。じゃあな」
と、恭一郎が学校の屋上から飛び降りた。
「はっ!?」
夢だった。
「隆。今日ゲーセンいこう」
「すまないでござる。拙者はヴァレンタイン氏と先約がある故」
「光。二人で遊びに行かないか?」
「俺、今日は春とショッピング行くんす。ごめんっす」
あれから、非モテ集団はどんどん分裂していった。
隆と光は、俺らより彼女と幼馴染を優先し、非モテ集団をなかったことのように扱っている。薄情だ。思い入れはないのか。
だけど。だけど。昨日の隆の言葉はまさにそうだ。非モテ集団とはもう名乗れないほど、俺たちはモテている。それは本当の話だった。
辛い。
何がつらいかというと、俺の罪だ。
俺らが知らず知らずのうちに追い込んでいた。引き金となったのは多分俺。主犯は俺である。
「…………なにか、あったの?」
心配そうな顔をして空が俺の顔を覗き込んできた。
「なんでもないよ。大丈夫」
俺は元気を装う。
空には何の心配をかけたくないっていうのもある。この前に、心配をかけすぎたから。頼れと言われたけど、これは俺の問題で、それをいうと空も罪悪感を感じると思う。
だからこそ、空には言えなかった。
「大丈夫そうには見えないけど……」
「大丈夫だよ。あ、この卵焼き美味しいな」
「なんか無理してない?」
「無理なんかしてないよ。安心して」
俺は一心不乱に空が作ってきてくれた弁当を口に運ぶ。
「うーん。まあ、納得してあげる。これ以上聞かれるのは久太くん嫌そうだし」
といって空もご飯をつっつきはじめた。
少し経った後、空は箸をとめる。
「でも、本当につらかったら私も頼ってね。傷つけたくないとか、そんなこと言わずに。私にだって覚悟はあるからね」
といってまた、手を動かし始めた。
ご飯を食べ終わる。
ごちそうさまと空が言うと、空は弁当をしまった。そして、空はトイレに行くって言って席を立つ。俺は背もたれに大きくもたれかかり、横目で恭一郎を見てみた。
恭一郎はゲームにイヤホンを挿してゲームをしている。その笑顔は辛そうな笑顔だ。
隆たちも、浮かない顔をしている。
百瀬さんに話しかけられても、適当に受け流しているだけで、百瀬さんが少し不満気味なため息を漏らしていた。
こればかりは俺らの問題で、人に相談するのはダメだ。俺らの問題は俺らで解決。そうしないと、俺ららしくない。だけど、この問題は解決できそうにはなかった。
でも、できないことはない。結構長く考えればいいのではないだろうか。
いや、ダメだ。それは問題の解決ではない。問題を解消しようとしている。問題そのものをなかったことにする。そういうのはダメだ。ちゃんと、問題に向き合おう。向き合おう……。向き……。
「あーあ。めんどくせえ」
俺は、窓の外の太陽を眺めつつ、本音を漏らした。
もういっそ、人間関係を投げ出したい気持ちでいっぱいになる。
煩わしい関係を捨て、今大事にしている関係を壊さないようにしたほうが賢明じゃなかろうか。逃げたいことから逃げて何が悪いんだ。
俺はもともと弱い弱者だ。弱者はいつも逃げるんだ。だから、俺はもう、逃げてもいいだろうか。
―――なぜここで逃げるんだ。大事にしていたのではなかったのか。
―――大事にしていたって、今の問題から目を背けたいのは事実だ。
―――目を背けたいからといって大事にしていたものを切り離すというのはダメだろ。
―――何かを守るために大きなハンデを抱えるより、辛くても切り捨てたほうが傷は小さい。
―――傷どうこうの問題じゃない。俺の気持ちの問題だろ。
―――その俺の気持ちの問題が、目を背けたいといっているんだ。
自問自答が続く。その議論は終わりそうになかった。
俺の心の中では今でも葛藤が続いている。この気持ちに蹴りをつけるためには、俺は、どうしたらいいのだろうか。




