キスの講義
朝のホームルームが終わると空がヴァレンタインに向かってくる。
「あの、人の彼氏にき、きき、キスしないでくれない?」
先ほどの濃厚なキスにまだ動揺しているらしい。
俺もだ。
「んん?キュータの恋人ですか?」
「そ、そそ、そうだよ!」
空はなんだか気が動転しているみたいである。俺も、さっきのような暖かい感触を忘れることは出来なかった。
ファーストキスは恋人ではなく隣の外国人美少女に。なんだか複雑な気分である。
「そうなんデスね。ですがキスは挨拶みたいなものなのデス。辞めろと言われてモ……」
「うっ、文化の違いか……」
「それに、ワタシはキュータを親愛してイマス!ワタシはフレンチ・キスは親愛している人、敬愛している人、性愛している人にしカしまセン!」
「性愛……。ってそれって恋人ってことじゃん!」
性愛……。男女間の性的な愛じゃないか。
想像しないでおこう。
「モウ。そんなに言うならキスしたらどうデスか?ソラもキュータにキスすればいい話デス!」
「「えっ!?」」
俺らは顔を見合わせる。
ヴァレンタインはキラキラとした目でこちらをみていた。い、今キスしろってこと?
俺は空をみる。空は俺をみる。
空はこくりと頷いた。そして、目を閉じる。
やれってことか!?
「うぅ……恥ずい」
俺は唇を近づける。
空の可愛い顔が近づいてくる。隣からは「きゃー!」とか聞こえてくる。見られてるよ。ああ、恥ずかしい。
「ってわあ!?」
俺が目を覚ますと保健室のベッドの上にいた。
隣には平然とした顔の空。な、なんだ夢か……。
「お、おはよう久太くん」
「おう。おはよう」
空の顔を見る。
あのキス顔が、脳裏にまた蘇る。なんというか、可愛い。だが、あれは夢だったんだ。
「いやー、すげえいい夢見たさ。空と俺がキスするところ」
そういうと、空は固まった。
つんつんとつついてみても動かない。
「……いい夢だったな、俺と空のキス」
「…………」
「…………」
お互い無言になる。
……まさか。まさか、だよな?
「おっはよーごじゃいマース!キュータ!ソラ!元気デスかー?」
と、扉をあけて出て来たのは夢にも出て来たヴァレンタイン。
その時、疑惑が確信へと変わった。
「夢じゃ、なかった?」
「………………………………うん」
長い沈黙の後、答えた。
「お互い…恥ずかしくて、倒れたらしい…」
「…………」
……夢だけど、夢じゃなかった。
あれは現実?その後俺はぶっ倒れただと?
情けない。というか、公衆の面前だから恥ずかしいんだよ!わざわざ人目があるところでキスしたくないし!
「もう!キスごときでドギマギした人初メテ見ましタ」
流石、愛の国出身……。大事なキスをごとき扱いするとは。
「キスでそんな緊張してチャダメ!あなたたちは竹馬の友なのデスか!」
「竹馬の友じゃなくて恋人……」
「竹馬の友?犬猿の仲じゃなくて……?」
「犬猿の仲デス。犬猿の仲なのデスか?!」
と、、問いかけてくる。もちろん俺らは首を振った。
「私は、久太くんが好き……だけど」
「お、俺も……」
「ならそれヲ表現しないト!好きという気持ちを伝えなキャずっと悩みマス!愛は直線でいいのデス!」
と、大きな声を張り上げて講義を行なっていた。
俺らは真剣に聞き入っていた。たしかに、その通りだ。悩み続けるだろう。
……でも、キスは無理です。




