転入生はある意味危険です。
一昨日、あんなことがあった。
昨日は学校を休み、傷をいやした。
そして、今日、学校に来たのはいいのだが。
教室に、なんだか人だかりができている。俺の席の隣に。はた迷惑で仕方ないので、俺は空の席に移動し、空と話すことにしたのだが。
空はまだ登校していない。
……いったいなんだあの人だかり。真ん中に何がいるというんだ?
俺は真ん中の人を覗き込もうとジャンプしてみたりするも見えない。なので、妹尾に話を聞くことにした。
「なんだあの人だかり」
「転入生がきたんだよ。それもとびきり可愛い」
「そうなのか」
「見た目では西園寺さんに匹敵するくらい可愛かった。性格もよさそうだったぞ」
と、妹尾はにやにやして言う。ちょっと気持ち悪いが、そこまで可愛いなら俺は見てみたい。男としての本能だから仕方ないし、別に浮気はしない。
俺のいない間に転入生がきたから自己紹介しないとね。
でも、あの人だかりに入る勇気はない。
そう悩んでいると空が登校してきた。
空は悲しげな顔をしている。どうしたのだろう。俺は空に近寄った。
「空。どうかしたのか?」
「……久太くん?」
と、俺に抱きついてくる。
え、ええ!?
「心配したんだよ! 祥太郎と殴り合いのけんかしたって隆くんから聞いて、ケガしてるって聞いたから……」
「あー、ごめん」
「行くときも私に相談してくれてもよかったんだよ。私の問題でもあるんだし、無理して久太くん一人で解決することないんだよ」
「あー、すまん」
俺はとりあえず謝っておく。
俺の心配をしてくれたということなのだろう。それはありがたいし、嬉しい。
「うん。お説教は終わり」
と、俺に抱きつくのをやめて、笑顔を見せる。
「ところでさ、あの人だかりってなに?」
「なんか転入生来てるんだと。話しか聞いてないが」
「そうなの?」
「知らなかったのか?」
「うん。私昨日はちょっと体調不良で休んでたし、一昨日は久太くん探すために学校さぼったんだ」
意外だ。真面目な空が学校をさぼるなんて。
「そっか。ごめんな」
「まったくだよ。って、もうそろそろチャイムなるね。またあとでね」
俺は席に座ると同時に先生が来る。
先生が来ると人だかりはいなくなる。俺は横目でちらっとその転入生の姿を見てみた。
さらさらとしたショートボブの金髪。青い瞳、高校生のわりに豊満な胸、笑顔でずっとぴしっと座っている様子の彼女。
見た限り外国人だ。なんだか片目に眼帯をつけているが。
と、見ていると目が合ってしまう。
彼女は驚いたのか何かの構えをとった。
「貴様っ、何者ダッ!」
「は?」
「モシカシテワタシの正体を見抜いてキルしにキタキラーカ!」
はい?
「いや、俺は小鳥遊 久太っていうんだけど……」
「フム。敵にシテは礼儀正しイ。ワタシも自己紹介しヨウ」
と、俺のほうを向く。
「ワタシの名前はヴァレンティーヌ。ヴァレンタインと気軽に呼んでもいいヨ」
片言の日本語で自己紹介するヴァレンタイン。
「あの、ヴァレンタインさん。その言葉遣いって」
「二ホンではこういう人がいるってきいタ」
いや、いるけど。それ若かりし頃の俺だけど!
「それは中二病っていってアニメの世界とかに囚われた人が陥ってしまう立派な病気なんだ。あなたもその道には行くな」
それは黒歴史になりうるのだ。
鏡の前でかっこいいポーズを模索して、そして見つかったらそのポーズにあうセリフを探す。「世界は今日も平和だ」とか「ふん。愚かな人間どもよ。未だに吾輩の正体にも気づかなんだ」とかな。あれは恥ずかしかった。今もなんかむずむずする。
「キュータはワタシを心配してくれテルんデスか?」
「まあ、な」
「オウ! キュータ、ジュテーム!」
と、ヴァレンタインは立ち上がり俺に抱きつくと、唇に濃厚なキスをした。
き、ききき、キスうううううう!?
クラス中の視線が刺さる。空はなんだか、魂が出て行っていた。
あ、あの! っていうかディープかよ! 外国人怖え!
「ぷはっ」
「ムフフ~」
上機嫌のようなヴァレンタイン。
外国人というのは、キスの重みを知らない。今のがファーストキスなんですけど……。
就職どうしよう……




