本宮の執念
「空たん。迎えに来たよ」
懲りずにやって来た本宮。
俺は我慢できずにまた空の目の前に飛び出る。空を庇うよう空と本宮の間に入った。
「また君かい?他人の手を使わなきゃ僕に勝てない弱者が空たんと一緒にいるの?」
「はっ。弱くてなにが悪い。少なくとも俺は人間性はお前より強いと思うけどな愚か者」
本宮は笑顔を崩さない。
だけれど、若干イラついているのがわかる。計画を邪魔されて怒っているのだろう。まあ、俺には関係ないがね。
「弱かったら空たんを守れないじゃないか。君がなにを守れるというの?」
「弱いやつは弱いやつなりに守り方があるんだぜ」
「ふ、ふたりとも。やめて!」
「うん。空たんが言うなら」
こいつ……!
「ねえ、祥太郎。私は久太くんが好きなの。だからさ、や、やめてくれない?」
空は俺の腕に抱きついて本宮を見つめながら言う。
その瞬間に本宮の笑顔が崩れた。
そして、ゆっくり俺に近づいてくると、いきなり拳が飛んで来た。
俺は殴られて、倒れこむ。
「きゃっ!?」
「僕の空たんに好きと言わせやがって……。男としてのクズだな」
「なにを……」
俺は殴られた頬をおさえながら立ち上がる。
そして、もう一発殴ろうとしているのか拳を振り上げた。俺は咄嗟に防御の構えを取り目を瞑る。
だが、痛みはこなかった。目を開けると、東城が本宮の腕を握っていた。
「なにしてんだよ。お前」
「……なにって、男のクズに制裁をだね」
「制裁?それはお前の思い込みだろ。俺には一方的に殴ってるようにしか見えなかったぜ」
意外だった。俺を敵視して、突っかかって来た東城が俺を庇う。
一体どうしたのだろう。
「離せ」
「断る」
「離せって言ってるだろう!」
と、握られていないもう片方の手で東城を殴る。
そして、本宮は空の腕を掴んだ。
「本当は好きじゃないんだろう?言わされてるだけだよね。本当は僕のことが好きなんだってわかってるよ」
「祥太郎……」
そして、パシンと乾いた音が鳴り響く。
空が、本宮を平手打ちしていたのだ。
「私は本気で好きなんだよ。それなのになんで否定するの?」
「……嘘だ。空たんは僕のことが好きなはずだよ?」
「嘘じゃない!私は久太くんが好きなの!」
「……嘘だよ」
「私は祥太郎が嫌い!嫌いだし苦手だよ」
空は泣きながら思いを述べていく。
その時、会長の言葉が頭に浮かんだ。
『だから自分の気持ちを言葉にできない。相手が傷つくかもしれないと考えてしまう』
自分の気持ちを言葉にできない空が、自分の気持ちを口にした。
俺は嬉しかった。
泣きながら好きだと言ってくれることに。
だからこそ、俺も好きであらねば。
「空。もういい。落ち着け」
「大輝……」
「こういうのは最後彼氏がやるもんだぜ。ほら、久太。彼女の前でかっこつけろよ」
と、東城は笑顔でいった。
か、変わったなーこいつ。まあいい。俺は前に出る。
「ということだ。諦めろ。本宮」
「…………うるさい」
「お前は嫌われてんだよ。単なる思い込みだ。だから愚者なんだよ」
「うるさいうるさいうるさい!」
完全に我を忘れ突進してくる。
かわそうとしないやつに拳を当てるのは簡単だった。俺は攻撃をかわしてお腹にパンチをいれる。
「ほんと、愚かで醜いよ、あんた」
ドサッと、本宮は崩れ落ちた。
本宮はあれから意気消沈として帰っていった。
本宮は自分の愚行に気がつくことはなく、自分が正しいと思い込んだまま。変わることがないあいつ。
そして、変わった東城。
「大輝兄ちゃんあんなに毛嫌いしてたのに庇うなんてねぇ」
ニヤニヤしながら佳は東城を見ていた。
そんな佳に一発ゲンコツをかましていた。
「うるさい。俺はあいつが気に入らなかっただけだ」
と、述べるも、気に入らなかっただけで俺にラストを譲るなんてことはしない。
きちんと、彼氏だと認めてくれたということだろう。
「な、なんだよ久太まで気持ち悪いな。ニヤニヤして……」
「ふーん?」
「気持ち悪いからやめろ」
と、逃げてしまった。
どうやらまだ仲良くなることはできないらしい。
「それにしてもあいつ、なんなんだろうねえ」
「知らん。ただ言えるのはロクなやつじゃねえってことだな」
「う、うん……」
空は何か辛そうにしていた。
多分、本宮のことを引きずっているんだろうな。たとえ嫌いでも、見放すことはできないのだろう。
「で、大丈夫?頬赤いけど」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「ふぅん。大丈夫じゃなかったら空姉ちゃんに治すためだって言ってキスさせてあげようと思ったのに」
「け、佳!?」
……残念だ。
キス……。たしかに痛いって言っておけばよかったかな?