愚者は大晦日の夜に嗤う
屋敷内に突入する。
屋敷内はとても部屋数も多く、探すのに手間をかけそうである。
だが、あいつの性格を考えてみよう。用心深いのなら窓から安易に逃げ出せる一階にいるのはしないだろう。空を傷つけたくないために枷とかはしていなさそうだし。
だとすると二階か三階にいる可能性が高い。
俺は廊下を走り、しらみつぶしに探して見る。
三階に駆け上がり突き当たりの部屋。そこにいたのだった。
「来たんだ」
「ああ……」
淡々と述べる本宮。
俺は息を整え、本宮を睨みつける。空は寝ているようで可愛らしい寝顔が目に見えた。
寝てる。まあ、別に問題はない。
「空を返せ」
「なにをいう?空たんはもともと誰のものでもないよ。それに、空たんと僕の愛を邪魔しないでもらえるかな」
なにが愛だよ。お前らの間には愛なんてないくせに。愛なんて抜かすなよ。
お前が空のことが好きでも空はあんたのことは好きじゃない。やはり、こいつは愚かだ。
「なにが愛だよ。空はお前のこと、好きじゃないぞ」
「ふふん。勘違いしないでもらおうか。そういうのは行動でわかるのだよ」
「お前は一体、誰を見てるんだ」
こいつは本当に空のことが好きなのか?空を本当に見てあげているのか?
愛なんて本当はないだろ。お前は空を見ていない。空の気持ちを汲み取れていない。
「誰って僕は空たんを見ているよ。空たんのことしかみていない」
「嘘つけよ。本当に見てるなら空の本当の気持ちもわかるだろう」
「本当の気持ちなんて本人しかわからないでしょ。僕たちはみんな理解できないんだよ」
と言った。たしかに正論だと思う。
人の気持ちはその人本人しかわからない。ただ、予測することはできる。きっとこう思ってるんだなって。わかろうとする心意気が大事なのだ。
「僕は間違ったことは言っていないよ。ただ、僕は本当のことを述べてるだけさ」
「そうかもしれない。だが、いつだって正論が正しいわけじゃないだろ」
「正論はいつだって正しいのさ。正しくないのなら正論とは言わない」
「お前のそれは暴論って言うんだ。覚えておきな」
正論は正しいとは限らない。正論を振りかざしてることだけが正しいとは限らない。
正論だって、何にだって凶器になる。優しさも、正論も。人の気持ちは毒にもなりうるから。
「僕が暴論なら君はなんなのかな。僕より暴論の気がするけどね」
「俺は感情論だよ。論理なんて必要ねえ」
「理解できないね。君は」
「ほっとけ。それに、お前なんかに理解されたくねえよ」
俺は、睨みつけると、後ろの扉が勢いよく開かれた。
入って来たのは百瀬さん。
百瀬さんはドアをぶち壊して入ってきた。
「西園寺はここかあ!」
百瀬さんを見て本宮は笑う。
まるで俺たちを嘲笑うように。嘲笑を含んだ笑みを浮かべた。
その様子を百瀬さんは気に入らなかったようで。
「なに笑ってんだこの野郎!」
「ふん。怒るなんて無駄なことをする。どうせお前も僕には敵わないのだか」
そこまで言って、本宮は殴られた。
吹っ飛ばされた本宮は目を回している。
「その薄ら気持ち悪い笑みがムカつくんだよ。それより西園寺は……!」
百瀬さんは辺りを見渡し、空を見つけると駆け寄っていった。
そして、頬をぺちぺちと叩くと、空はゆっくりと瞼を開ける。
「……百瀬ちゃん?」
「助けに来てやったぜ」
「あ、あり、がと」
空は辺りを見渡して状況を理解できたようだった。
俺らは本宮の屋敷を飛び出した。
そして、会長の車に乗り、離れていく。
空を無事取り戻した。その喜びはでかい。
「お疲れ、小鳥遊」
「会長も手助けありがとうございます」
俺らは、空を家まで送り、そして、家に帰ると、疲れ果てていたのか、寝転がったと同時に意識を手放したのだ。
そして、翌日。千葉の爺ちゃんがこっちの家に来ると言う話を聞いた。




