弱者は大晦日に決意する
もうそろそろ大晦日の夜になる。
その時に電話が鳴った。鳴らしているのは会長だった。俺は少しの希望を持つ。そして、電話に出た。
「もしもし」
『私だ』
「会長。見つかったんですか」
『ああ。無事に場所は特定できた』
場所は特定できたらしい。
俺は立ち上がる。今から向かわねば。空のところに。俺は空を迎えに行く。
『場所は祥太郎の家だ。私の予測が間違っていたから見つからなかったのだろう。すまなかった』
「裏の裏をかいたのか……」
本宮は会長が家にいないってことを予測するのを予測していたのだろう。イケメンで頭も回る。知略に富んで身体能力も高い。
そんなのチートじゃないか。許せない。
「会長。本宮の家を教えてください」
『私が案内しよう。空の家まで来てくれ』
俺はそう言われて電話を切って部屋を飛び出した。
瑞穂が下でなにかしているようだが、俺は今は構っている暇はない。靴を履いていると瑞穂がキッチンから顔を出す。
「兄さんどこいくの!?」
「ちょっとそこまで!」
俺は見向きもせず、家を出て行った。
一心不乱に走り続け、空の家に着くと空の家の前に白のフェラーリが止まっている。フロントガラス越しに会長の姿が見えた。
会長はこちらに手招きをしており、窓に近づくと、くいっと後ろを指す。乗れ、とのことだろう。
俺はフェラーリに乗り込んだ。
「では、祥太郎の家まで頼む」
「はい」
会長がお付きの人らしき人に命令をだした。
「改めてすまなかった。私がまだ未熟なばかりに見つけるのが遅くなってしまった」
助手席に乗っている会長はこちらを向くと頭を下げる。
会長のせいじゃない。そんなことは俺はわかっている。
「相手がずるがしこいだけなんで会長は悪くないですよ」
「はは、そうかもな」
相手の思考を先読みし、裏をかく。こういうのは敵に回したくない。だけど、今はそいつが敵だ。敵である本宮。俺とは相反する存在。
彼は空を愛するも空は本宮を苦手としている。彼はそれに気づかない。なんとも醜くて愚かである。そんな愚者に、負けることなんてしたくない。そんな愚か者のために尻尾巻いて逃げるなんてことはしたくない。
気づかせてやる。お前の愛がどんなに醜悪なものなのかを。お前が愛していても空は愛していないことを証明してやる。
なんてったって俺は空の彼氏だから。空を守るのは俺だ。あいつじゃない。
「ふむ。覚悟は決めたようだな」
俺の様子を見ていたらしい会長はそう笑ってこぼす。俺はそれに静かにうなずいた。
覚悟なんてとうにできている。そりゃ俺は打たれ弱いかもしれないけど、彼女は守る。俺だって男の端くれなんだから。
「多分、祥太郎は念には念を入れ屋敷内にトラップも設置しているだろう。もしかしたら殴り合いになる可能性もある。喧嘩の強い者をひとりかふたり連れていくことを進めよう」
「喧嘩が強い人って……。百瀬さんがいた」
「百瀬さんという人を屋敷に呼び出すんだ。なるべく早くな」
そう言われたので俺は百瀬さんに電話をかけた。
数回コール音がなり、途切れる。そして聞こえてくるのは穏やかな口調。
『なんだ? 小鳥遊』
「百瀬さん。頼みがあるんだ」
『ん? なんだ?』
「今から札幌駅に来てくれないかな。事情は札幌駅で話す」
『……今からか?』
「ああ。ごめんな」
『……ちっ。しゃあねえなあ。行ってやるよ。条件があるが』
「条件って?」
『冬休み中あたしの家の仕事の手伝い。人手足りねえんだよ』
「それくらいなら」
『交渉成立だな。今から向かうから待ってろ!』
と電話が切れる。
俺は会長のほうを向く。
「今から札幌駅に向かってください!」




