クリスマスには災難がやってくる?②
イケメンくんは空を「空たん」と呼んだ。
つまり空と近しい人なのだろう。というか、こいつ誰だよ。
「誰だ?」
「君こそ誰かな?僕の空たんに近寄る不届き者は」
「僕の空たん?」
なんだこいつ。気持ち悪い。
空は青ざめた顔をしながら、俺の袖を引っ張る。そして、ちょいちょいと手を招いた。
おそらく屈んでとのことか。
俺は屈むと空が耳に口を寄せる。
「この人は私の幼馴染の一人なの……」
「幼馴染?」
「うん。そう……」
なるほど。会長だけが幼馴染かとおもったがこの人も幼馴染なのか。
でも、空は嫌そうだ。幼馴染と会うのは嫌なのだろうか。、
「嫌いなのか?」
「ううん。苦手なだけ……」
本当に苦手なようで俺の袖を掴み、後ろに回っている。
俺はそのイケメンを睨んだ。
「邪魔するのか?僕と空たんの恋路を」
「邪魔か否かはともかく、俺の彼女に手を出すなよ」
空に触れようとした手を弾く。
すると、そのイケメンは俺を睨みつけてくる。そして、口を開くと大きな声で叫んだ。
「君が空たんの彼氏?ふざけるな!!空たんは僕の空たんだ!空たんも僕も相思相愛!!パッと出の庶民が身の丈に合わないことを言うな!」
「はっ」
相思相愛?明らかに空は嫌悪感を露わにしているだろうが。
それに庶民?それは認めるよ。俺は会社の社長のご子息でもなければ官僚の息子でもない。いたって普通の家庭の息子だ。それは認める。だが、それがどうした?
「あんた、目はちゃんとついてるのか?空のことなんもわかってねえな」
「ははは。見なくてもわかるんだよ僕たちの関係は。さあ、行こうか空たん。こんな男より僕のほうが君にお似合いだよ」
と、空の手を引っ張って連れて行こうとする。
俺はその手を引き剥がそうと掴む。すると、気がつけば宙に浮いていた。
投げられた?空気投げ?
「いでっ」
「ほら、こんなに僕は強くなったんだよ。この力で空たんを守ってあげる」
「いっでぇ……」
まだ腹の傷は完治したわけではなかった。
やばい。今ので再発したかも……。いってえ……。
「や…いや……」
「何を怯えてるの?怯える必要はないよ。さあ、君の父さんにも話をつけてあるから。今日から僕と付き合おう」
といって、空を連れ去ってしまった。
俺は引き止める間も無く、いなくなる。俺は腹を抱え、その場に蹲った。
空の姿は見えなくなった。
俺は会場の端で、一人ジュースを傾ける。すると、会長が近づいてきた。
「災難だったな」
「会長」
「空が祥太郎に連れて行かれたのが見えた」
「……見てるのならなんで助けてくれなかったんですか」
「はは。私も助けようとはしたが酔っ払いの対処をしていたものでな」
八つ当たりっぽくいってしまった。
ムカつく。あの男ムカつく。
「というかあいつ、祥太郎って言うんですね」
「ああ。本宮 祥太郎。私と空の幼馴染だ」
「そうなんですね」
「私が一個上で、祥太郎と空は同い年だ。そのぶん距離が近く、空は祥太郎に優しくしていた。それを、空は祥太郎が好きだと勘違いしたのだろう」
「ああ…なるほど」
モテない男は優しくされるほどその女の子に恋をしやすい。
よくある思考回路だ。「こいつ、俺のこと好きなんじゃね?」なんてよくあるやつ。
「だから、祥太郎は空が自分のことを好きだと信じ込んで疑わない。よく言えば一途。悪く言えば依存している。そう言ったところか」
依存している、か。
たしかに、俺が何を言っても聞く耳を持たなかった。
俺はそれをすんなりと納得できた。だが、まだ疑問点はある。
「……なぜ空は本宮のことが苦手なのですか?」
「ああ、それはだな。あいつは怖いものを知らないからだ」
「怖いもの知らずってことですか」
「ああ。何も恐れずにいるのはたちが悪い。報復を恐れないから他人を排除するのも厭わない」
それは自己防衛が出来るほどの力を持ってるから自惚れているのだろう。
たしかに、俺では敵わなかった。空気投げされたのを今でも覚えている。お腹もまだ痛い。
「私が抑制力になればよかったんだがな。私のせいだ。今日も私が君たちに近づかせなければこんなことにはならなかっただろう。すまなかった」
「……いえ、会長のせいじゃないですよ」
会長のせいじゃない。これは本宮のせいだ。
「そう言ってもらえると助かるよ。君もわかっているだろうが空は本当に優しい子なんだ」
それはわかってる。空は優しいのだ。
優しいからこそ、その優しさが裏目にでることもある。薬も使い方を誤れば毒になるように、優しさも誰にでも向ければそれは自分自身を蝕む毒となる。俺でもそれはわかってるのだ。
「だから自分の気持ちを言葉にできない。相手が傷つくかもしれないと考えてしまう。そこが魅力なのだけれどな」
会長は笑う。俺もそれにつられて少し笑ってしまった。
その通りだ。たしかにそこに俺もそこに惹かれたのだ。いいところだな。
「……さてと。じゃあ、聞こう」
「何をですか?」
「君は、空をどうする?」
「……もちろん取り戻しにいきますよ」
「そう来なくてはな。私も手伝おう。相手は御曹司だ。同じ令嬢である私の助け合ったほうが何かと便利でいいだろう」
会長の手助けを得られることとなった。




