西園寺さんとお弁当
体育は終わった。
西園寺さんにボールを当ててしまった男子は俄然暗いまま。友達が「どんまい」と励ましている姿が見える。
……俺が悪いの?
「久太くん?なんか疲れてない?」
「……大丈夫」
疲れてるのはあなたが原因でもあるんですけどね。
それにしても学校一の美少女と付き合うって敵がたくさんできるんだ。みんなのものという意識強すぎるだろ。非モテだった俺にはねえぞそんなもん。
「……ごめんね。久太くん」
「なんで謝るんだよ」
「なんか、私のせいで大変な目にあわせちゃって」
「自覚あるんならやめろよ…」
「ん、気をつける」
自覚あるんじゃん。なんでわざわざ彼氏に試練みたいな…。はっ、もしかして付き合ってるとかこつけて俺を虐めてるとか!?
なんだよ……。やっぱリア充になったと見せかけて実は虐められてるパターンかよ……。
「そんなに落ち込まないでって。ちょっとした試験みたいなものだからさ」
「試験…?」
試験だからといって虐めはよくないんだぞ!
「それにさ、久太くんの友達もクラスのみんなと和解させたかったし…」
「そう、なのか。だからといって俺が敵になると言ってないんだけど」
おかげで今でも男子からは殺意の目線しか来ていない。
怖いよぉ。夜道歩くとき気をつけよう……。
昼休みになった。
購買にパンを買う人がたくさんいる。もちろん俺もその一人だ。
購買はそれほど混んでるわけでもないが客がめっきりいないというわけでもない。
「おばちゃん。蒸しパン一つとカレーパン一つ」
「あいよ」
金を渡しパンを受け取る。
教室の自分の席に座った。
……そういえば西園寺さんどこいったんだ?
こういうのって彼氏彼女が一緒に食べると思ってたんだけど気のせいか……。そうだよな。本当に彼氏だと思われてないと思うし……。先いただいてよ。
俺はパンを開ける。
カレーパンのカレーを味わい、咀嚼しながら携帯で動画を見ていた。
今でも殺意の視線を感じるが、今は現実と切り離して自分の世界に浸ってよう……。
「うめー」
なんだか悲しくなって来た。
いつもなら非モテ集団とバカやりながら食べてるのに。今じゃ仲間にも入れてもらえない。
ああ、あいつらがいないと俺はダメだ……。
「久太くん?何泣きながら食べてるの?」
「ふぁっ!?西園寺、さんっ!?」
「ああっ!ごめん!」
あまりにも驚いてパンを落としてしまった……。
あ、あまり食べてなかったんだけど……。勿体ねえ。
「いいよ……。それで、何の用?」
「い、いや。彼女だから一緒に食べようかなーって…。あ、あの。パン落とさせてごめんね」
「ああ、そうなの」
俺は蒸しパンを開ける。
もう落ちたものは仕方ない。カレーパンは犠牲になっただけだ。
「……えっと」
「ん?」
「その、久太くん」
「なんだ?」
「ご、ご飯作って来たんだけど食べてくれない、かな」
こ、これはあ!?
もしかして俺のためにご飯作ってきてくれたという彼氏彼女では当たり前…。当たり前じゃないけどラノベでよくやってるやつ!?
「俺のために作ってきてくれたの!?」
「う、うん。味は保証しないけど…」
いやいや。なんでも自分のためって言ってくれたら非モテは喜ぶものですよ。
非モテで童貞は何気にちょろい。ソースは俺。
「うん。ありがとう。じゃあ早速食べていい?」
「あ、うん。はいこれ」
と、手渡されたのは重箱。
重箱?
「……これ、弁当?」
「うん。お弁当」
「そう…」
どこの世界に重箱のお弁当があるんでしょう。
俺こんなに食べられないよ?
「ああ、私も一緒に食べるから、ね?容器を別々にするのはアレだからさ」
「ああ、なるほど」
そういうことか。
でも結構量ありませんかね。まあいいや。手元に置かれたお手元の割り箸。
パキンと割って手を合わせる。
「いただきます」
まずは定番の卵焼きを一口。
出汁がいい味してる。甘くてとても美味しい。口の中で広がる出汁の味を堪能していると、隣から手が伸びる。
「うお、美味そー。もーらいっ」
振り返るとチャラチャラのチャラ男がいた。チャラ男って全部カタカナにするとチャラオっていってね?エジプトにいそうだよね。
でもさあ。チャラオくん。これ俺のために作ってきてくれたのに……。
「うん、美味い。空ちゃん料理上手だね」
「……うん。ありがとう」
……なんか腹立つねえ。
嫉妬かな。嫉妬だな。うん。
「ねえねえ俺も混ぜてくんね?いいでしょ?小鳥遊くぅん」
ムカッ。
こういうの嫌です。非モテ集団の一番の敵です。
ああ、この世界がFPSならヘッドショットでワンキルしてるのに……。
「え?あ、いや、あの」
「いいでしょー?」
と、強引に机をくっつけようとしている。
ここは彼氏として俺が頑張らねば!
「やめてよ。俺らは楽しく食べてんだから邪魔しないで」
「はあ?陰キャが何言ってんの?」
「うるさいカッコつけブサイク」
「なっ……!」
ここは冷静に。
落ち着いて素数を数えるんだ……。2、3、5…。
「俺らの邪魔すんなよリア充」
俺は睨みつけた。
「……ちっ。覚えてろよ」
「忘れるまで覚えておく」
三下のセリフを吐いて去っていった。ベタなやつだな。そういうのはラノベでよくある展開なんだよ。
「さてと。ちょっと邪魔が入ったけど食べようか」
「う、うん。ありがと…。きゅ、久太くん」
「どういたまして」
平然を装ったつもりでしたけどなんか変になりましたっ☆