父との和解
コンビニで別れ家に帰る。
家に帰ると靴は一つ。やはり母さんは帰ってきていない。父さんしかいないようだった。
帰ってきたのはもう12時近い。これが普通の親なら俺を叱るのだが。
俺の父さんは俺が帰ってきたことを知っても何も反応はしない。ソファに座り、ただ、テレビをぼーっと眺めていた。
どうやら瑞穂が見つからず四苦八苦してるらしい。
いい気味だ。
「あー、疲れた。風呂入って寝よう」
今日はとてもイラついたからな。
心がとても傷つきました。。。
「おい、久太」
「……なんだ」
俺が風呂入ろうと浴室へ向かうのを止めたのは父さんだった。
苦虫を噛み潰したような顔をして、俺に向かう。
「すまなかった」
と、頭を下げてきた。
意外だ。父さんが俺に頭を下げてきたことはない。父さんが悪くても、口で謝るだけで頭は下げない。そして、謝るのも母さんや瑞穂に窘められたから。
自ら進んで頭を下げるということはない。
だが、考えてみると理由がわかる。
「……自分のプライド捨ててまで瑞穂に会いたいのか。俺への謝罪じゃないだろ。気持ちこもってないんだろ」
「いや、謝罪も込めている。すまなかった。今まで」
父さんには嘘は感じられなかった。
頭を下げ続けている。
……なんか悪いもんでも食ったのか?
「なんか悪いもんでも食った?」
「食べてない。俺はお前を見てなかった。千代にぶたれて気がついた」
たしかに父さんの頬は赤く染まっていた。
「俺はお前を見てなかった。俺は妄信的に瑞穂を愛している。それは変わりない。だけど、今度からはお前も見ることにする」
「いや、それはいい」
妄信的に愛されてもそれはそれで困る。
親バカな親にはなって欲しくないんだが。
「まあとりあえず、謝罪はわかった。だけど、瑞穂はあんたのことすんごい嫌ってるよ。生理的に無理とも言っていた」
「……それは、多分私の行動か?」
「自覚できてるんならまだ大丈夫だ」
なんだよ、自覚はしてるじゃんか。
自覚はしてるのに直さなかったとはたちが悪い。本格的にダメなんじゃないの?
「まあ、なんにせよ、今度からは俺を差別するのやめろ。俺はまだ許すつもりはないからな。俺はねちっこいタイプだから引きずり回すぞ」
「覚悟の上だ」
父さんは真顔で頷いた。
「どうやら和解出来たみたいね」
「か、母さん?」
「久太ー。今まで不在にしてごめんね?ちょっと一郎さんを説得させるために一郎さんの実家まで行ってたものだから」
「実家あ!?父さんの!?……ってどこ」
父さんの実家ってどこですかね。俺一度も行ったことないし聞いたことないんだが。
「ああ、そっか。久太は行ったことないものね。一郎さんが、連れていかないから」
「うぐっ…」
「一郎さんの実家は千葉県にあるのよー。それもデズニーランドの近く」
「マジで!?」
「一郎さんはよく連れてってくれたわ。瑞穂も一緒に」
俺行ったことないんですけど!?
その頃北海道にいたと思いますが、というか、それいつ!?たしかに夏休みとか俺以外家にいなかったのが多いけどさ!
「そうよねえ。一郎さんは久太を連れていかなかったからデズニーランド行けてないものねえ。今度は一郎さんのお金で行きましょうか」
「いや、俺別に行きたいわけじゃないんだけど」
「なら何か買ってもらいましょうか。お詫びに、ね?一郎さん?」
「は、はい」
なるほど。この眼光で睨まれたらあの君清さんも怖がるわ。
女ってつくづく怖いと思えたよ。いや、マジで。
朝起きて、俺はリビングにいると父さんと母さんがなにやら言い争いしている声が聞こえる。
『彼女が出来たって本当か!?』
『そうよ!しかも兄さんの娘さんよ。惹かれあうものなのね!運命っていうものを感じるわ』
『ああ、民天堂の社長さんか。というか、あの人と千代が兄妹ってことが未だに信じられないんだが』
ごめん。争ってませんわ。
まあ、争いじゃないなら別にいい。俺は姿を現して冷蔵庫から牛乳を取り出し、飲む。
朝起きたときの牛乳美味え。
「おお、久太。、おはよう。お前、彼女出来たんだってな」
「……そう、だけど?」
「な、なんか不機嫌?まだ許してくれない…のか?」
「一郎さん。久太は朝に弱いのよ」
そうです。朝は頭が回らないんです。
とまあ、まだ眠さが残る。俺は眠い目をこすりながら洗面所に向かい髪を直した。
今日は日曜。まだ寝てていいのだがいかんせん眠れない。二度寝出来ないタイプです。
「ふあーあ……」
とりあえず、誰か俺を目覚めさせてください。




