学校祭前日
学校祭まで、あと一日。
俺はバンドの練習をしていた。非モテ集団が突如バンドをするということで、俺もボーカルとして参加。
音楽室を借り、歌の練習をしていた。
「俺は、認めねえー」
歌い切って、椅子に座る。
笑顔の西園寺さんが近寄ってきた。
「お疲れ様。はい、スポドリ」
「さんきゅ」
スポドリを受け取り、飲み干す。
やっべえ。本気で歌うと真面目に疲れるな……。バンドの人ってこういうのよくやってんだな。
「ふぅ。バンドというのは疲れるでござるな」
ギターをぶら下げて汗を拭く隆。
恭一郎は余裕そうにエレキを鳴らし、光はキーボードを弾いていた。小寄は……ドンドンとドラムを鳴らす。
バテてるのは俺と隆だけらしい。
「なんでやろうと思ったんだ?」
「いや、久太と西園寺が付き合った記念の年だから何かやろうとな。来年はバンドやらねえよ」
「付き合った……。うん。やっぱ嬉しいなあ……。あの時告白してよかった」
「そうかい」
なるほどね。記念だからと。
まあ、思い出になればいいかな。ずっとずっと。思い出に残そう。
この今の時間。西園寺さんと交際している今。なんか、楽しい。
「拙者たちは応援してるのでござるよ。非モテ集団は全面的に協力するでござる。なにかあったら呼ぶがよろし!」
「俺たち無敵の!」
「非モテ集団っす!」
「……す」
バカだよなあ。
非モテ集団たちには申し訳がない。俺ばかり得してないか?いや、たしかに俺はモテない筆頭格だったけどさ、そこまで俺の幸せを願っていいのか?
「お前らは、誰かと付き合いたいとか考えないの?」
俺は、哀れみや同情の気持ちのない質問をぶつけた。
「思わないな」
「思わないっすね」
「思わないでござる」
「……思う」
四人は一斉に答える。
小寄はあるんだよね……。俺のこと好きとか言ってたよな。
「俺モテねえし。現実の女に希望を持つのはもうやめた」
「現実はクソ!」
「現実はクソゲーっす!」
「……久太」
とのことだ。
非モテ集団(男子)は本当に恵まれない。なんだか罪悪感しか湧かない。ごめんなさい。
「光は幼馴染というフラグがあるだろ。しかも、西園寺さんには及ばないけど結構な美人なんだろ?」
「そうなんすけど、俺に好意向けてるようなことはなくって……。脈なしって思ってるっすね」
「そうなのでござるか?で、その幼馴染ってこの学校?」
「そうっすよ。この学校で有名な人っすね」
「西園寺氏か?」
「え?私?私にも幼馴染はいるけど光って名前じゃ……」
「ああ、有名だという自覚はあるんだな」
西園寺さんも一応自覚はしていたらしい。
有名であるのって辛いよな……。
で、この学校で有名なのって西園寺さん、会長、あと……あの子か?
「宮古 春、か?」
「そうっす!久太は流石っす!」
ああ、宮古か……。
あの子あれなんだよ。現実乙女ゲームみたいになるやつ。乙女ゲームの主人公っぽい人のことだ。
俺も会ったことはある。西園寺さんに告られるちょうど前に。
教室で一人掃除してた。
で、イケメンくんが入ってくの見えた。ここ、乙女ゲームの世界じゃないと思うんだが……。
故に俺は心の中で乙女ゲームの主人公って呼んでる。
「春は誰に対しても同じ態度だから脈ないと思うんすよねえ。それに、イケメンと二人きりでいるところが度々目撃されているんす。よってこれは脈なし。Q.E.D.」
「なんというか」
「悲しいでござるな」
「言うなっす。皆まで言うなっす」
あ、光が落ち込んだ。
うーん。宮古さんに好きな人いないか、俺が聞いてみるのもありか?
「俺、好きな人いるか聞いてくるか?」
「……いいっすね!赤の他人が、尚且つイケメンが好きな人いないか聞くのっていいっす!相手にも好意的に……」
「む…」
「はだめっすね。やっぱ彼女持ちには頼めないっす」
「そんなときこそ我ら」
「非モテしゅーだーん」
ドラムをバンバン鳴らす小寄。
すごく楽しそうだなー。
「俺らが聞いてこよう!」
「拙者らならどう思われても知らぬ!」
「ひかぬ」
「……媚びぬ」
「省みぬうううう!」
バッチリ決めポーズを取っていた。
「西園寺氏も来るでござるか?」
「う、うーん。久太くんがいくなら」
「ほら、こいよ!久太」
「お、おう」
まあ、光のためだ。俺もひと肌脱ぐとしよう。
「嬉しいんすけど多分今日は帰ってるっすよ?カバン背負って帰るところ俺見たし」
「……明日、だな」
「学校祭の日に聴くとするか」