いざ、戦地へ③
捕らえられて、牢獄生活。
なんだろう、目の前の少女メイドは出してくれる気配がない。
出すどころか完全に油断がない。途中、逃げ出すために何かを遠くに転がしてみるも無反応。ガタッと音を立てて隠れても無反応。
なかなかの強敵だ。
「む、お嬢様の気を感じる」
お前なんなの?西園寺さんどんだけ好きなんだよ。
と、宮前さんは目の前から去った。
挨拶しにいったのだろうか。だとすると今がチャンスじゃないか?
俺はドアに近寄る。
うん、きちんと鍵がかかって抜かりがないね。
俺の携帯はあそこの机の上にあるし……。鍵がないと携帯も取れねえっつの。
どうすりゃいいんだ?ここから叫ぶにしたってあのメイドたちのことだ。絶対聞こえない。
どうすりゃいいんだよ。俺挨拶に来ただけだよな?俺こういうこと予想外なんですけど!
くそ……ここから出る方法は。
「……あんた何してんの?」
「わっ!」
びっくりした……。横から急に話しかけないでもらいたい。
「ここから出ようとしても無駄だからな。私の目が光ってる限りここから出させはしねえ」
と、睨みつけてくるメイド。その鋭い眼光に負け、俺は元の位置に戻る。弱え……。俺。
と、その時、上で何かが聞こえた。
何かを荒らす音?誰か怒って暴れちらして……。
あ、聞こえるっていうことは防音性はそこまで高くないということじゃないか?
「ちっ。上で何が起きてるんだ。騒がしいな」
苛立ちが募っているメイド。
俺は叫ぶにも叫ぶことはできなかった。ここで叫んでも何かやられる可能性がある。
できれば西園寺をここに呼びたいのだが。
まあ、無理だろうけど。
「久太くんここかな?」
と、どこかから声が聞こえる。
気のせいか……。とうとう幻聴まで聞こえるようになったとしてはもう俺は末期らしい。モテない俺の最期……。
「お嬢様!?なぜここに!?」
「いやー、佳子が久太くんと一緒に挨拶しにきたって言ってて、私探してたんだよ。佳子も探してる。で、茜はここでなにして……」
俺と西園寺の目が合う。
なんだ、救世主か……。
「……ねえ、何してるの?茜」
「あ、あの、お嬢様。私はお嬢様を守ろうと」
「なんで、牢屋に入れられてるの?早く出して……?」
普段の西園寺さんより低い声を出している。
多分、キレてる……。俺のためにキレてるということは十分ありがたい。けど、なんだか寒気が走ったぞ。
牢屋の鍵が開けられ、俺は外に出られた。
「助かったよ。捕らえられててここから出られそうになかった」
「ううん。うちの茜が悪いから。あとで、茜にはきつーーーく言いつけておくから。ごめんね。久太くん」
「あ、ああ。お手柔らかにな。で、そういや上で誰か暴れてなかった?」
「ああ、あれはお父さんだね」
へ?なんでお父さんが暴れてんの?
「『小鳥遊くんがいなくなったら千代に殺される』って悲壮な顔をして探してたよ」
「お、俺の母さんまじでなんなんだ……?」
一つ言えることは俺の母さんは謎。
西園寺さんの父をこんなに怖がらせるなんてマジで何者?将軍?
「いや、すまないね。、うちのものが。これで私は千代に殺されずに済むよ……」
胸をなでおろしているのは西園寺さんの父、西園寺 君清さん。
西園寺グループの現統帥であり、一番偉い人。四之宮家と並ぶ名家だ。
「い、いえ。別にお…わたしは気にしておりません」
「お詫びはなにがいいだろうか。やっぱり久太くんの就職先の斡旋がいいか? 来るならばうちにこい。エリート街道まっしぐらにさせてやろう」
「あ、えと、か、考えておきます」
この家族怖え!エリート街道まっしぐらって……。俺最低でも大学でないとダメじゃないか?
「考えておきますってな。そろそろ進路について本格的に考えないとやばいんじゃないのか?」
「…………」
そうなんだよなあ。
高校二年の夏休みから始めないとやばい。オープンキャンパスとか一切参加してないし、まだ具体的な将来を決めてない。
やりたいこととか、特にないからなあ……。
「まあ、うちにきたら給料をよくしよう。千代の息子だから信じてるんだ。これが他の男だったら刀持ち出して切ってるかもな。ははは」
「は、ははは……」
母さんの息子でよかった……。刀で斬られるってなに。切り捨て御免か?今平成だからそんな文化ないけど。
「で、うちの娘とはどこまでいった?Aか?Bか?」
「お、お父さん!そこまでいってないよ!」
「まだキスもしてないのか。うちの妻は好きだっていってキスをしてきたのに」
「だ、だって……」
「空。俺は小鳥遊くんなら歓迎だぞ。あ、婚約でも結ぶか?」
「お父さん!?」
婚約!?そこまでいくんですか!?
「どうする?」
「……わ、私は、結びたいけど……。久太くんはどうするか」
婚約……。こういうのって名家がやるイメージがあったが。
婚約、ねえ。
俺の母さんも認めてるし、いいんじゃないか?俺も西園寺さんのことは好きだし。
「まあ、いいです、よ」
「そうか?なら、早速結ぶからな」
こ、婚約かあ。
その時、携帯に電話が入った。
「あ、すいません。電話が」
俺は電話に出る。
妹からだった。
『に、兄さん。早く帰ってきて』
「どうした?」
『父さんが、帰って、きた』
……おいおい。今日は全くついてねえな。
魔王優しい……!