いざ、戦地へ①
昨日、誘拐犯に殴られた傷が痛い。
もし俺がチート持ちだったのなら、こういうの楽勝なのだろうし、万能だったら傷も負わなかっただろう。だが、俺は万能じゃない。成り上がりのイケメンだからそういうのはね、ちょっと。
で、まあそれはいいとして今は仕事なうです。
俺の隣には長瀬さんがいて、仕事してるわけだけど……。
「小寄。これ、うちこんでくれない?」
「…………」
喋らない。
あれ?昨日ゲームの時喋ってなかった?気のせいなの?あっれぇー?
「あ、あの、小寄、さん?」
「……傷………大丈夫?」
「あ、あぁ、大丈夫だけど……。あの、小寄さん?お仕事の追加を…」
「…………」
……もしかしてこいつ。
「お仕事、やりたくないのか?」
肩を震わせた。
おい。やりたくないからって無視するな!俺だってたくさん仕事あるのに無視をするんじゃあない!
「なんで、立候補したし……」
「……久太くんが、いるから」
「俺がいるから?」
「うん……。久太くん……好き…だから……」
「……はいぃ?」
今なんて言った?
「お、俺のこと好き、なの?」
そう聞くと彼女は頷く。
キリッとした目つきでこちらを見つめて来た。
「好き……」
「へあっ!?」
まじすか!俺、モテ期来てんのか!
……でも、その素ぶりとか何も見せなかったような……てか、俺に彼女いるってことわかってるよな?
「好き……だけど……彼女……いる……」
「お、おう」
「でも……諦め……たく……ない……」
「お、おう?」
「だから……分身……して?」
「できねえよ!」
分身できないからね!久太第二号とか出てきたら怖いし、影分身の術も使えません。
「って、大声出してすいません」
気がつくと見られてたので、頭を下げておく。
「……なんで、できないの?」
「いやいや、出来ると思います?」
「思わない」
「ならいうなよ……」
「イケメンは……なんでも……できる……」
いやいや。できないから。そういうのは漫画の世界とかラノベの世界だよ。もし俺が異世界に転生したらチートでなんでも出来るようになってるかもしれないけど、異世界転生なんてできねえし。
あっ、突然足元に魔法陣が……!とか、車に轢かれたと思ったら異世界でしたとか、急に倒れて死んで転生!とかないから。
いや、異世界あるなら一回行ってみてえけどさ。
「それはただの妄想だから。俺、なんでも出来るってわけじゃないよ」
「…………分身も?」
「分身も」
「……残念」
「なんでそれで幻滅されるの?」
残念じゃなくて。
分身とか出来たら確かに強い。
「ふっ。それは残像だ」とか、出来そう。
だが、出来るわけがないだろうに。
「副委員長はいるか?」
「あ、会長?」
「おお、いた。これから西園寺さんに挨拶に行くことになった。出資元だから挨拶に行かなければならない。生徒を代表して私と副委員長でいく」
「……へ?」
さ、西園寺さんに挨拶をしに、いく?
それって親父さんと会うってことだよね。ということは、武装しなきゃ…!
海で西園寺さんと話したときに言われたこと。
「武装してきてね」とかそういう類のことを言われたはずだ。
……防弾チョッキとか買わないと……。
「そんな怯えるなよ。殺されは……殺されは……」
「殺されは!?というか、なんでそんな不安な顔になってるんですか?やめてくださいよ。俺怖くなってくるじゃないですか……」
「……とりあえず、今から保険に…」
「死亡保険ですか。それって死亡保険ですか……」
不安げな会長。どんどん声が小さくなる。
俺の恐怖と不安はそれに反比例しどんどん肥大化していった。
あ、あれ。おかしいな。なんだか足が震えて……。あ、あれ?な、なんで俺は泣いてるんだろう。
「ほ、骨は拾うし、死んだら火葬場とか葬式の準備はうちでするから……」
「やめてください。ほんと…そういう洒落はやめてください」
「…………」
「洒落、ですよね?」
「…………」
何も言わない会長。
あ、あれ?洒落、だよな?
「……久太、くん」
「な、なんだ?」
「…………ぐっどらっく」
「あ、あいるびーばっく」
と、とりあえず戻ってくることを望もう。
やばい。最後の戦いに挑む戦士の気分だ。
「俺が死んだらあいつらに頼むな……」
「……ぐっ」
親指を立てる小寄。
「…………いきます、か」
「そ、そう、だな」
いざ、戦地へ赴かん……!
次回、魔王(西園寺の父)登場予定
次回更新遅れるかもしれません