バレンタイン小話 久太と空のバレンタイン
二月十四日。バレンタイン。
彼女もできない一年の冬も終わろうとしていた。まあ、彼女なんていらねえけどこういう浮き足立った行事は好きじゃない。
貰えないことが一種のバッドステータスみたいな感じがして腹が立つ。
「みんなソワソワしてるでござるな」
「バレンタイン効果だろ。俺らにゃ関係ねえさ」
「そうっすね。だけどゲームも店もバレンタインフェアだからちょっぴり傷つくっすよね」
非モテ集団と呼ばれる集団で登校してきた。
俺は靴を脱ぎ、下駄箱を開けると、中に綺麗に包装された箱がでてきた。
……あれっ?
「ナニコレ」
その箱を取り出す。
赤い箱に茶色いリボンで結ばれた箱。なんだこれ。何これ。
もしかして、チョコか?
「久太氏がチョコ貰ってるでござる!?」
「う、裏切り者め!」
「敵襲ー!敵襲ー!」
「待て待て待て!たぶん入れ間違えだよ!」
たぶん勘違いしたんだろうな。
でなければ俺にチョコなんて来るはずがない。俺は伊達に非モテ集団に入ってるわけじゃない。
だからこれは俺宛じゃないけど……。でもありがたく貰っておこう。間違えた本人が悪いのだ。
……悪いのだ。
「あれ、下駄箱の中に手紙が入ってるっすよ?」
「手紙ぃ?」
俺は手紙を手に取り読んでみる。
『久太くん。本命です。受け取ってください』
と、差出人の名前がない本命だと俺に告げる手紙。
……間違いじゃ、ないのか?
「……誰だ」
差出人の名前がわからない。
本命です……。つまり、俺は誰かに好かれてるというわけだろ?誰だよ!?
俺にもとうとう春が来る!ひゃっほい!
っと、いや、これは嘘かもしれない。俺の純情を弄ぼうとしているだけなのかもしれない。
……チョコは貰うが簡単に好きになってもらえると思うなよ!俺はちょろくないからな!
「はい。小鳥遊くん。チョコ」
と、教室に来て早々学校一の美少女ともてはやされている西園寺 空さんがチョコを渡して来た。
「はい。小波くんたちにも」
「ありがとうでござる!」
「あんがとさん」
「ありがとっす!」
みんなに配るなんて優しいな。女神様だろあの慈愛の心。俺じゃ到底無理だな。
だけどみんなに配る分ホワイトデーのお返しも多いのだろう……。
……さっきのチョコ、ホワイトデーってどうすりゃいいの?
返すのが義理だと思うけど返せないよね?差出人もわからないんだし!
……お返しはいらないってことなのか?
「美味いでござる。市販品?」
「これは手作りだよ」
「そうなのでござるか!」
へえ、手作りなんだ。
結構作ったんだろうな。
「……小鳥遊くん。食べてみてくれるかな?」
「俺?わかったけど」
ラッピングを外しチョコを一つ齧る。
ちょっぴりビター。ふむ、美味い。ほんのり甘いけどどちらかというとビターチョコだ。
「美味いぞ」
「……よしっ」
「よし?」
「何でもないよ。感想ありがとね!……って、あれ?カバンの中に何か箱入ってない?貰ったの?」
なんだよそんな意外そうな顔。
「下駄箱ん中にあったんだよ。誰が渡して来たのかはわかんないけどとりあえず本命、だと思う」
「本命嬉しかった?」
「嬉しかったけど…俺を好きになる女子いないと思うし何かのイタズラかなと思ってる」
「そう。嬉しいには嬉しかったんだ」
「まあな。イタズラとはいえ貰えたからな」
「そう。、じゃ、私はこれで」
「おう」
去っていく西園寺さんはなんだか嬉しそうだった。
席に着き、朝貰ったチョコを食べてみる。
さっき西園寺さんからもらったチョコとは違い甘い。イチゴが入っているのかイチゴの酸味が舌に残る。
これ、多分手作りだな。
なんとなく、そんな気がする。
「美味え」
これ作った人は相当料理上手だろ。
と、これが去年の出来事。今年は義理を渡して来た空が、またチョコを渡して来た。
「食べてみて」
「わかった」
一つチョコを口に含む。
……あれ?この味どこかで。去年貰ったあのイチゴのチョコに似てる?
似てるというか、これ同じものだぞ!?
「ふふん。どう?」
「……去年差出人不明のチョコって、空だったのか?」
「そうだよ。気づいてもらえるように同じ味にしたんだ。やっぱ気づいてくれたね」
「あの時のチョコは空のだったのか…」
「うん。あの時も今と同じでめっちゃ好きだったからね!」
……めっちゃ好き
めっちゃ好き。
くうう!可愛すぎかよ!俺だって好きだぞ!空大好きだ!
「あの時は面と向かって渡せればよかったけど恥ずかしくて…。誰か知られたくなかったから名前残さなかったんだ。今ではこう面と向かって好きと言えるようになったし、今までありがとう久太くん!これからも、ずっとよろしくおねがいします!」
「こちらこそ!」
俺は空と力強く握手をした。




