日本酒を呑みましょう
俺が君清さんを引き継いで早数年。
仕事も慣れたけれど多忙な毎日を過ごしていた。書類の山を見た後には会議だとか色々とあり、様々なパーティにも出席。
そして、商談など様々な仕事をこなしていた。
もはや、働きづめ。社畜と言わんばかりに。
「はあああ……疲れたぁ……」
我が家に帰りネクタイを解く。
ソファに倒れるように座ったあと、空が近づいてきた。
「おかえりなさい」
「ああ……。ああ」
「ああしか言えなくなってるね」
「ほんっとに疲れたんだよ……。もはやああしか言えなくなった」
くたくたのヨレヨレです。誰か俺を癒してください。
「あ、パパ。帰って来たんだ。おかえりー」
「おーうただいまー」
娘の伊織は誰に似たのか知らないけど優しく育っている。
思春期を迎えたにも関わらずパパのパンツと一緒に洗わないで!とか言い出して来ない。あれ言われたら相当傷つくね……。
「あ、そだ。パパ、佳さんいつくるの?」
「佳?」
そういや、最近顔出してないな。
ドラマとかの撮影が忙しいのかは知らんがたまには連絡よこしてもいいというのに。
「佳忙しいのかなー。バラエティとかでもまだ出てるし」
「だな」
今もテレビで生計を立てている。
「あ、そだ。佳子きてったよ」
「あ、本当に?」
「うん。これ、お土産だって」
おお、これは美味しそう。
トリュフチョコレートか。それも、高価な。
「いっただっきまーす」
「一つもらう」
チョコをつまんで口に運ぶ。
疲れた脳や身体に糖分が染み渡るぅ……,至福。まさに極上のひと時。
「あ、そうだ。久太くんって日本酒飲めたっけ?」
「飲めるよ。俺テキーラとかウォッカは無理だけど日本酒は好きだよ」
テキーラとかウォッカは本当無理。なんか知らないけど無理。
それ以外なら飲めるかなって。度が強いのは無理だけどね。
「じゃあさ、久しぶりに飲もうよ。最近呑んでないでしょ?」
「わかった。付き合うよ」
「やったっ!」
こうしてたまに、空の晩酌に付き合うのも俺の日常だ。
ビールもあるのだが空の場合は大体酎ハイとかサワーとか。スカッとしたやつが主流だが、今回は日本酒。まあ、空が飲んでも絵になるな。
もっといいのは露天風呂で浮かべた桶の中に温めた徳利と猪口を入れて夜空を見ながら……,
やべえ。想像したら可愛すぎて堪らん。
「いいなー。私もお酒飲みたい」
「お酒は二十歳になってからだぞー」
「周りは飲んでるもん」
「うちはうち。というか、うちはそういうのは慎重になんなきゃいけないんだよ」
そう、少しでも娘が問題ごとを起こしたりとかしたら信用まで関わる。
だから、法律は完全遵守。絶対守らせなきゃならん。
「けち」
「ごめんね伊織。伊織が二十になったら一緒に晩酌しよっか」
「はーい」
伊織はつまらなさそうに上に上がっていった。
それを苦笑いで見つめつつ空は日本酒の用意をしていた。
枡を用意してそれに日本酒を注ぎ始めた。
枡酒をやってるのかな。普通中にコップを入れてそれに並々注ぐけどまあ、自分の家だしマナーとかはいいか。
俺も立ち上がり、小皿に塩を盛った。
たしか枡酒って塩をちょびちょび舐めながら呑むのがツウの飲み方って聞いた。
「久太くんなにそれ?」
「塩だよ。なんか塩をちょびちょび舐めながら呑むのがいいらしい」
「そうなの?じゃあやってみよっか。はい、これ久太くんの」
「おう」
俺は枡を持ち、塩を指につけて舐めたあと、日本酒を口に入れた。
美味しい。日本酒も悪くない。
「美味しい!」
「美味いな」
ほんのりと甘い甘口の日本酒。
ああ、美味しい。露天風呂で飲んでみたいなこれ。風呂に浸かりながら呑んだら美味いんだろうなぁ。
「塩も結構いいね。結構好きかも」
「こりゃ美味しい」
ツマミが欲しいな。
「あ、そうだ。揚げ出し豆腐作ったよ。それツマミにして食べよっか」
「お、気が利くなー!俺今ツマミ欲しかったんだ」
「ツマミがないと寂しいもんね。塩辛でもよかったんだけど豆腐あったから豆腐にしたんだ」
空が揚げ出し豆腐を持ってきてくれた。
空が作ったものは相変わらず美味そう。いや、美味そうじゃない。美味いんだ。
「いただきまーす」
「いただきます」
箸で豆腐を口に運ぶ。
うん、最高。
そして、その豆腐の味を口に残したあとで日本酒を呑む。
うん、至高。至高で極上。素晴らしい……!
大晦日と新年にまた番外編を2話ずつ投稿します。




