削除された物語の復刻①
俺は空の家に入ろうとしたその矢先だった。
突然とドアが開かれて、中から出てきたのは空。怒って周りが見えていなく、俺を無視して通っていった。
な、なにがあったんだろう。空が俺に気づかないなんて……。
「そ、空! 待ちなさい!」
「…やだもん。待ってほしかったら……」
空がそこまで言ったところで目が合った。
空は驚いたような顔をしていて、そして、俺に駆け寄ってきた。
「久太君!」
空と抱きつく。
会えてうれしい。一緒の気持ちだろう。俺は嬉しかった。
「ど、どうしてここにいるの?」
「……空が好きだから、来たんだ」
攫おうとした。なんて恥ずかしくて言えなかった。
会長は、そんな俺をにんまりと微笑ましく見ている。けれど、それは長くも続かかなかった。空の家から祖父さんが出てきて、空と俺を無理やり引っぺがす。
「なにしとるんじゃ空! 抱きつくな!」
祖父さんは俺のほうを睨みながら俺から空を遠ざけようと腕を回し、俺を警戒している。
空は、また、涙目になり、祖父さんを睨んでいた。
「なんで? 私は久太君が好きなんだよ! 抱きついたり、付き合ったりするくらいいいじゃん!」
「よくない! 庶民の血が流れていると思うと怖いんじゃ。庶民は、欲に目がないしの」
「久太君は優しくて、お金目的じゃないって!」
「信じることは出来ん。裏があるじゃろ」
空は俺の良さを語っている。
有難かった。俺は、空にそう思われてるんだって知ることもできた。けれど、俺だって欲はある。空と付き合いたい。好きだから、付き合いたい。
欲がないわけではない。
「大体、こいつのどこがいいんじゃ? 顔だけじゃろ」
「顔だけじゃない!」
空は泣いていた。
顔だけじゃないと否定してくれた。
「顔だけじゃなくて、久太君は優しくて、私のことを思ってくれてる! ずっと、ずっと好きでいてくれて、私をいつでも助けてくれた!」
助けた……。そんな大層なことはしていないけれど。
「私をいつも心配してくれて、気にかけてくれる久太君が好きなの! だから、私は久太君と付き合いたい!」
空は地面に頭をつけた。
俺も、それにつられるように頭を下げる。許しを請うように、俺は頭を地面にこすりつけた。
「俺からも、お願いします。先日の件は、俺が悪かったです。俺と、空が付き合うことを許してはもらえないでしょうか」
必死に、頭を下げた。
途中で頭を蹴られたり、踏まれたりしたが耐えた。俺は、こんなとこで別れたくはない。納得するまでは続けるつもりだった。
「……君清さん。貴方が決断したらどうですか。今の会長はあなたなんです。君清さんの判断に委ねたらどうでしょう」
と、会長が祖父さんに告げた。
祖父さんは、何かを悩んでいるのかずっと無言のまま。
「……わかった。今の会長は、君清だからな」
と、君清さんにすべてを委ねられた。
俺は君清さんのほうを改めて向いてお願いする。
「お願いします。君清さん」
「お父さん。お願いします」
二人、頭を下げ、懇願する。
そして、君清さんは決断をした。
「わかった。許可する」
そう言われた瞬間、空と俺は抱き合った。




