描かれるはずだった物語の削除③
空にかけても電話に出やしない。
俺との関係を断ち切れと言わんばかりに。でも、今回ばかりは執念深い俺がいる。
空といきなり別れさせられて、無理やりにでも納得しろっていうのは納得できない。
「でも、どうしよう」
君清さんと連絡できない今、俺は誰に頼るべきなのか……。
あ、あの人に手伝ってもらえないだろうか。
俺は電話をかけた。
「待たせたか」
俺が電話をしたのは会長だった。
会長も、また空とかかわりがある。会長から空と通信が取れないか。会長に協力してほしかった。俺一人では、多分無理だろうから。
会長には電話で一通り話している。経緯もすべて。
「小鳥遊。私は応援しているぞ。君のためなら協力は惜しまない」
「ありがとうございます。今回も頼ってしまってすいません」
空と問題事があったら、何かと会長に頼り切っている。今回もまた頼ってしまった。会長にはたくさんの恩がある。それはいつか返したい。
だけれども、今は空が大事だ。
「来る途中空に電話したのだが、繋がることはなかった。きっと携帯を使えなくしている」
会長がそう言っていた。
会長は車に乗れという合図をしてきたので、俺は遠慮なく乗らせてもらう。
そして、車は走り出した。
どこに行くかと思ったら、いきなり、空の家の前につけられた。
「……今、行くんですか」
「そうだ。雲さんから聞いたのだが、明日、京都に行くという連絡を受けたそうだ。連れ戻すなら、今しかない」
京都に……。
君清さんと一緒に京都にいくとなると、もう、戻ってこないのではないか? そうなると、俺は……。
そういうことは、絶対にさせない。俺は、取り返す。空が好きだから。だから……親の反対を押し切ってでも、連れ去りたい。
覚悟はできている。乗り込もう。
「私は嫌だ! 行かない!」
「諦めてくれ……。私は、こうするしかない」
空は、必死に君清に抗っていた。
京都に行きたくないと、空らしからぬ駄々をこね始めた。祖父の前で駄々をこねていた。
「いいよ。そっちがそうなら私にも覚悟はあるから」
「……な、何する気じゃ」
祖父は、少し慌てふためいてた。空は、祖父を見る。
「私、家の名前を捨てます。西園寺なんていりません」
そういって、飛び出していった。




