描かれるはずだった物語の削除②
「い、嫌だよ! わ、私は久太君と……」
「わがままを言うな。これは……仕方のないことなんだ」
空は泣いて君清さんに縋る。俺は、こぶしを握り締めていた。
なんとなく察することはできた。君清さんがそう言ってしまうことを。君清さんには悪いけど、俺はそこまで信用していなかった。君清さんを。
わかっていて、だからこそ悔しい。思い通りになったことが悔しかった。
「久太君も何か言ってよ! 私と別れるの嫌でしょ!? お、お願いだから、何かいって!」
「……ふざけるな」
俺は、祖父さんに近寄る。
「なんじゃ。雑種。お前の顔は見たくない。すぐに……」
俺は、祖父さんを思い切り拳で殴った。
祖父さんは、玄関に追突し、殴られた頬を押えて俺を睨んでくる。
「お前、わしにこんなことしていいとでも?」
「うるせえ! なんでお前なんかに決められなきゃならないんだよ! 俺は絶対別れたくないんだ! 空が好きな気持ちは変わらねえ! お前なんぞに決められてたまるかよ!」
俺は、また拳を振り上げたところで、瑞穂に止められた。
後ろから俺に抱きつくように止める。俺は殴るのをやめて、俺はその場を去った。
あそこにいると俺はまた殴ってしまいそうで。老人を感情のままに殴ってしまったという罪悪感もあった。
俺が去る瞬間、君清さんが頭を下げた。
空と俺が別れた……ことになった。
空は泣きながら連れていかれた。俺も、母さんから平手でたたかれて、説教された。でも、母さんも泣いていた。
「ごめんね。あんな父さんで。あれでも結構まだ力はあるの。だから……今は我慢して」
我慢できるかよ。
好きな女の子と別れて……それも無理やり。反発したくなる。我慢なんて、俺にはできない。
俺は空とまた付き合いたい。だけども、君清さんが渋っている。逆らうことはしたくないというように。逆らうことを恐れている。
……情けない。
俺は決めた。君清さんから奪ってでも空をもらう。好きな人のためになら、俺は必死になれる気がする。たとえ壁があったとしてもぶち壊して進むのみだ。
高校生の時の俺なら、諦めきれずにいて、泣いていただろう。今のような対抗する考えは浮かんだとしても自信はなかっただろう。現に俺はそうだ。
三潟と婚約が決まったとき、俺はどこかでそれを受け入れてしまった。空のことを考えるとそうした。
だけど、もう俺は受け入れない。
空がいないのなんて嫌だ。俺は空が好きで、それは諦められない。空が好きということは変わっていない。俺は強欲で、クズに成り下がるかもしれない。だけど、俺は空を西園寺家から奪うということを決意した。
空にも不快な思いをさせるかもしれない。
そしたら、俺を振ってもらえばいい。空に振られたのならあきらめがつく。他人の手で別れるのは諦められないからだ。
「やっぱ諦められない」
「きゅ、久太? 何言ってるの? 今は我慢といったでしょう」
「嫌だ。俺は我慢なんてしない。俺は空を奪う」
空が好きだから。そういう心にだけ従うことにした。
作者はハッピーエンドが好きです。




