描かれるはずだった物語の削除①
12月31日。大晦日。
年末の今日、俺の家では大忙しだった。
母さんの実家から人が来るということだ。
それも、西園寺グループではとてもえらい立場にいる。つまり、丁重にもてなさなければならない。まあ、今は君清さんの方が偉いのだが。
「今更何の用なのかしらねえ。私、勘当されているはずだけど」
母さんがぼやく。年末に忙しいのはその西園寺家の人が来るからであり、また、母さんにとって悲しい情報が入ってきたという。
母さんの父親が意識を取り戻したと。
脳梗塞か何かでずっと意識を失っていたらしい。ずっと病院で植物状態になっていたのがつい先日目を覚ましたという報告が入ったらしい。
この報告には母さんもあわてていた。
「ともかく、空ちゃん。君清を呼んでちょうだい。今会長は君清だからもしかしたら説得できるかも」
「わかりました」
空は電話をかけていた。
「……不安ねえ」
と、午後二時。家の前に車が止まった。
「……さてと。空。久太くん。ちょっと覚悟しておけよ」
と君清さんが空と俺の背中を押す。
な、何が始まるんだろうか。
「千代! いるんじゃろう! でてこんか!」
玄関の扉が勢いよく開かれた。
入ってきた祖父さんはいかにも頑固そうで。というか、強面だったためにちょっと怖い。
「なにさ、父さん」
「なにもない! お前には西園寺家に近寄るなと言っているだろう!なのになんで君清に近づくのだ! 挙句にはお前の息子と空が付き合ってるというではないか! 今すぐ別れろ!」
……なる、ほど。こりゃ怖い。
それはそうだ。母さんは勘当された身。近づくなと言われているのに近づいた。多分俺らが原因だけれど。
だけれど、俺は別れる気はない。
「お爺ちゃん。なんで久太君と付き合っちゃダメなの?」
「平民の血が混じった雑種だからだ。だから今すぐ別れろ」
悪かったな。雑種で。
「別れるのなんて嫌だよ。それだけは聞くことできない」
空はきっぱり言っていた。それを聞いてさらに激昂する祖父さん。
さっきまで顔を赤くするほどカンカンだったのにさらにまた火が入った。もう、火山並みの温度になっている。
「……君清。いいのか。わしに逆らっても。貴様は無能だったから一から鍛えてやったのに。恩を仇で返す気か」
祖父さんは君清さんを諫めるような目で見ている。それにたじろいでしまう君清さん。
無能と言われるのは辛いだろうな。俺も言われたくない言葉だと思う。
「認めたくはないがお前より千代のほうがよっぽど優秀じゃった。だがわしは後継者をお前にした。鍛えてやったのにわしに逆らうのか?」
「うっ……」
君清さんが頭を抱えてしまう。
……腹立つ。なんだこの祖父さんは。ここまで選民意識が強く恩着せがましい。正直言って俺は嫌いになりそうだ。
「……ほら、君清からもいいなさい。別れるようにと。娘が大事なんじゃろ? 雑種が混じっては空の成長を妨げる。いいことなんてなにもないのだ」
お、俺と空が付き合っていて何もいいことがない、だと?
ふざけるなよ。
そして、君清さんは俺が恐れていた決断をしてしまった。
「空。久太君と別れなさい。……これは、命令だ」
と、言われてしまったのだ。




