西園寺さんの恋のきっかけ
西園寺家の物置。
普段誰も来ないらしい。人が来ないのならあまり聞かれたくない話をするのが容易い。
「お、お話って……なにかな。も、もしかして……」
何を想像しているんだろう。頬に嫌な汗が伝る。
「わ、私のどこがいけなかったのかな。わ、私はこんなにも好きなんだけど……」
「さ、西園寺さん?」
「な、治すから振らないで!」
「いや振らないから! ちょっと聞きたいことがあるだけだから」
やっぱそういうこと思ってた! まあ、たしかに真剣なまなざしで呼び出したらそういう風にとらえるかもしれないけど、今のところ俺に別れるという選択肢はない。
西園寺さんには特に不満点もないからだ。
「よ、よかった」
「振らないから安心して聞いてね」
安堵したのかほっとそのデカい胸をなでおろしている。
俺も安心して、聞くことができるようになった。
「まあ、その質問は結構簡単な質問なんだけど」
「うん」
「俺の、どこを好きになったの? いっちゃなんだけど俺ってそんなにかっこよくなかったんだよ。どこを好きになったか気になってさ」
俺は尋ねると西園寺さんの顔が明るくなった。
聞いてほしかったのかな。ともあれ、多分この様子だと答えを教えてくれるだろう。
「え、えっと、私が好きになったのはね」
「う、うん」
「私を私として見てくれるから、だよっ!」
西園寺さんを西園寺さんとみてくれるから?
「えっと……。夏休み始まる前に私はみんなの西園寺ってことを話したよね」
「ああ、バッティングセンターの時の」
たしかにあの時は悩み相談を受けた。
バッティングセンターの時にみんなの西園寺 空ということに悩んでいた。だからこそ、ストレスを発散していたという。
「そう。みんなは私のことを高根の花だと思ってるの。みんな私には特別視して、私を見てくれなかった」
「ああ、”みんなの”西園寺さんって言われてるもんな」
「それが嫌だったの。私と話すときも敬語。同級生なのに敬語使われて、仲良くなれそうになかった」
ああ。わかる。たしかに非モテ集団から敬語使われたら距離を置かれてると思うしな。思わずきもいと思ってしまうほどに。
あいつらが俺に敬語使うと想像したらちょっと寒気走っちまったぜ。
「でもね、一回久太くんと話した時に、久太くんは私に見向きもしなかった。敬語使わないで話してくれた。それがうれしくて……」
「好きに、なったのか」
なるほど。話した時に「あ、すいません」って言ってたら今はないのか。
GJ過去の俺。お前の功績で今があるぜっ!
「うん。単純だけど嬉しかったんだぁ……」
「まあ、あの時は俺も我が道をいってたからな」
あの時の俺は確か……。
ある日英語の時に有名な美少女とペアを組むことになった。
「よ、よろしくね小鳥遊くん」
「おう」
俺は教科書を開いた。そして、漫画本をはさんで読んでいる。俺は別に真面目っこではない。
授業の時たまにだがこうしてマンガを読んでいる。何気にスリルがある。
そして、俺はばれないようにマンガを読んだ。
隣の美少女が何か話しかけてくる。
「ま、漫画読んじゃだめだよ」
「いいんだよ。気にするな」
という会話をした気がする。
ちなみに今もたまにやってたりするのだ。
この会話っきり話していない。この会話のどこで好きになるのか不思議なんだけどなあ。あれじゃん。授業不真面目なやつじゃないか俺。
「たしかにあの時マンガ読んでたね。今も読んでるよね」
「ああ。まあ、別に勉強はできるほうだからな。少しだけさぼっててもなんの悪いこともなし」
テストではきちんといい点は取れるのだ。
「ほんと不真面目だね」
「ちょっぴり不真面目なほうが高校生らしいだろ」
「それ、高校生に対する皮肉だよね」
西園寺さんは笑った。
さきほどまでおじいさんが亡くなって悲しくなっていた西園寺さんが声を出して笑った。それはちょっと嬉しかった。
こうして、俺の夏休みは終わりを告げる。
振り返ると、京都で過ごした夏休みは長かったようで短かった。
次にキャラ紹介が入って新しい章に行くと思います。




