村上の過去②
「まあ、要するに私は虐待を受けていた……そういうわけです」
と、コーヒーを一気に飲み干してそういった。
気にするなと言いたげな口調だったので俺は気にしないようにした。気にしたら、村上も気にしてしまうのかもしれないしな。
「ぎゃくたいってなに?」
「茉莉は知らなくていいよ」
「おとなのはなし?」
「そう。大人の話」
茉莉ちゃんが知ったらどうなるんだろう。
というか、茉莉ちゃんは親の事なんて思ってるんだろう。物心つく前につかまったっていう話だし、親はいないものだと認識しているのかもしれないな。
「そう。ならこどものまついにはかんけいないね。だまってう」
「偉い子だね。あとでアイス買ってあげるよ」
「わーい!」
茉莉ちゃんが可哀想に見えてきた。
「アイスなら俺が買ってやるよ」
「え、大丈夫ですよ? 今は支援してくれている人もいてそれなりに裕福ですし」
「茉莉ちゃんって親の事よく知らないんだろ? 可哀想だと思ってな。ただの自己満足だから気にすることない」
別にこれは俺がしたいだけだから気にすることもない。それに、俺もアイスが食べたいからな。
「そ、そうですか。なら……お言葉に甘えて」
そういえば、この前も茉莉ちゃんにアイスを買ってあげた気がする。
その時は落としてしまったけど、今度は大丈夫だろうか。
「あいすうま」
ぺろぺろと夢中に舐めてるあたり大丈夫かな……。これで落としたりしたら泣くんだろうな……。
べちゃ。
そう思ってるとアイスが落ちた。俺のアイスが。
落ちたアイスは茉莉ちゃんの頭に落ちてしまったのだ。な、泣くか?
「わーい、あいすふえたー」
ポジティブすぎるだろ! 迷子で泣くのに落ちてきたアイスじゃ泣かないのかよ!
というかアイスが増えたって解釈するのね……。まあいいけどよ。
「ごめん。茉莉ちゃんの頭にアイス落として」
「茉莉、気にしてないから大丈夫ですよ」
いや、それはどうかと思うけど……。
「まあ、家に帰ったら風呂入らせるので大丈夫ですよ。ただ、バニラの白いのは目立ちますけど……」
そうだ。黒髪に白って結構目立つじゃないか。




