村上の過去①
雪が降る十二月。
道路には雪がたくさん積もっており、雪かきをしている人も多数いる。
俺は上着を羽織り、札幌駅で村上を待っていた。
理由は茉莉ちゃんが俺と遊びたいって駄々をこねているらしく、遊んであげてくれないかと言われたからだ。俺も暇だったし受けた。
「おまたせしました。待たせてしまいましたか?」
「いや、全然。俺が早く来ただけだから気にしなくていいよ」
それにしても、村上はすごい。
時間ぴったりに来るんだもの。正確すぎてもはや機械レベルだ。
「きゅーただー!:
「茉莉ちゃん。お久しぶり」
「きゅーた! ひさしぶり!」
茉莉ちゃんが駆け寄ってきたので抱き上げる。
子供と言えど結構重量はあるな……。
「わがままに付き合わせてしまい申し訳ありません。いつかお礼はしますよ」
「別にいいよ。小さい子相手って大変だろうしボランティアだよボランティア。だから気にすんな」
「きにすんな!」
俺の言葉を真似て言う。野蛮な言葉遣いはいけませんよめっ。
「お礼なら……ああ、デートスポットの紹介なんていかがでしょう。もうそろそろでクリスマスですし西園寺さんとクリスマスデートをしてみては」
「ああ、じゃあ、頼めるか? 俺そういうの疎いんだ」
「わかりました」
と、無表情でうなずく村上。
そういえば、村上の笑うところって見たことがない。吉祥といるときでさえも苦笑いくらいだ浮かべているのって。
……笑った顔見てみたいな。
「なあ、村上ってあまり笑わないよな。どうしたんだ?」
「……まあ、感情が機能してないんです。昔いろいろありまして」
「そうか。深く聞かないほうがいいか?」
「いえ、別にそういうわけではありませんよ。過ぎてしまったことですし時効です。聞きたいなら近くの店で……スターバッカスが近くにありましたね。そこで話しますよ」
スターバッカスコーヒー。略してスタバに来た俺たちは席に座る。
注文をして、村上と向き合った。
「実は私、虐待を受けていました」
「虐待?」
「はい。母と父がどちらともちょっと異常者でして。すぐに癇癪起こしては殴られたり蹴られたりしています。時には殺されかけたりとかしましたね」
まじか。
村上って想像以上に暗い過去を体験していた。
「常にご機嫌をうかがって、親の顔色をうかがいながら弟妹を育てる毎日でしたね」
「大変だな……」
「はい。さらに高校行くための費用もぎりぎりで近場の高校に行くしかなくて。弟と妹の高校の費用はばあちゃんからの遺産で賄うしかなくて、高校時代は何個もバイトを掛け持ちしてました。その時から、だんだんと笑わなくなってきたんです」
そりゃ笑わなくなるわ。
笑えないもん。俺がもし同じ状況になったら、投げ出して逃げる自信がある。村上もストレスがどんどん蓄積されていくことだっただろう。
「今は捕まって私たちはなんとか生活している感じなんですけどね。本当は大学なんて来るつもりなかったんですが大手企業につくためには学歴も大事だと聞いて大学に渋々入学しました」
「そうだな。今は大学卒が条件となってるところも多いからな。大手なんか特にそうだ。優秀な人材欲しさに大学卒を求める」
だから結構厳しかったりする。高卒で大手は無理だと思う。
「一刻も早く働きたいのに……」
「……だったら短大にすればよかったのでは」
「短大にしなかったのは私の性格上の問題です」
ああ、学ぶならきっちりと学びたいと……。
村上って案外頑固なんだろうか。




