風邪を引いた①
文化祭が終わり、数日が経った。
瑞穂も文化祭の熱狂が過ぎて、熱を奪われたらしく風邪をひいていた。
おまけに、俺も。
昨日から母さんは友達と一緒に旅行行っており、俺ら二人しかいないのだ。
「うわ、冷蔵庫の中なにもねえ」
買いだめとかしなかしなかったからなあ。
ちょっと辛いけど買いに行くしかないか……。熱が跳ね上がりそうだ。
「瑞穂。俺買い物いってくるから」
二階にいる瑞穂にそう告げて俺は財布を片手に外に出る。
秋も深くなってきたのだから、秋風が吹く。熱が出ているこの体にはちょっとばかし響くけれど……。これぐらいは耐えなければならない。
熱が、上がってきそう。
「寒い……」
早く近くのコンビニで食べるもの買ってこないと。
寒さで凍え死にそうだ。
「こほっ、こほっ」
マスクしてくるのも忘れていた。
こんな日に風邪なんてとてもついていない。
「あれれ? 久太くん?」
「……空か」
「どうしたの? 顔色悪いよ?」
空とばったり会った。
俺は空に事情を説明する。
「久太くん私に連絡でもくれたら仕事休んで行ったのに……」
「ごめん……こほっ」
「わかったよ。今から看病しに行くから。というか、すごい熱だね……。病院行く? 瑞穂ちゃんと」
「寝てたら治ると思う……」
「そう。じゃあ、雑炊作ってあげるから家に行こっか」
「わ、わかった」
俺は空の肩を借りて家に戻る。
空は買い物してくると告げて出て行ってしまった。俺は俺の部屋のベッドに寝かされている。
俺ってなかなか風邪をひかない体質だけど……。珍しく引いてしまった。
最後に引いたのはいつくらいだろうか。覚えているのは小学校三年生のころだ。インフルエンザにかかって寝込んで……。瑞穂が拙い手で看病しようとしてくれていたっけ。
あの頃は小学一年生の頃だったかな。で、あのあと瑞穂にもインフルエンザがうつって寝込んだんだっけ。
風邪の日って誰かがそばにいてくれる。母さんとか……。瑞穂の場合は父さんもついてたけどな。
『ごめん。久太くん。私に別の好きな人ができちゃって……。その好きな人の子供がお腹の中にいるの』
「そ、空っ!?」
俺は勢いよく起き上がった。
ゆ、夢か。不吉な夢を見た。悪夢というやつか。
「久太くん。やっと起きた」
「そ、空?」
俺のベッドの隣に空が座っていた。
手には小さい土鍋を持っている。
「はい。雑炊。ちょっと冷めちゃってるけどごめんね」
「あ、ああ」
俺は雑炊を受け取り、土鍋のふたを開ける。
卵雑炊だった。小口切りにされたネギも入っており、とてもおいしそうに見える。
「いただきます」
鼻水を啜り、蓮華ですくって食べる。
美味しい。
「美味い」
「ありがとう」
美味しい。雑炊はあまり好きじゃなかったが空の手料理ってだけで美味しく食べられる。
美味い。雑炊ってこんなにうまかったのか。
「そういえば久太くんうなされてたけど大丈夫だったの? なんか悪い夢でもみた?」
「……」
そう聞かれたとたん、俺は空のおなかを見つめてしまった。
あの中に好きな人の子供が……。考えすぎだろうか。
「空が俺以外に好きな人ができてその人の子供を妊娠する夢見たんだよ」
「えっ、私が?」
「うん。ちょっと寂しかったかな。そして、泣きそうにもなった」
「私が好きな人は久太くんだよ! 安心していいからね! 久太くんの彼女は私で私の彼氏は久太くんだから!」
「わかってる。でも、あの夢が正夢になったら怖い……」
あれが正夢になったら。俺はどうなるのだろう。
ショックのあまり身を投げ出してしまうかもしれない。俺は空に依存しているから、捨てられたら俺は……。
「大丈夫だよ。私には好きな人もうできそうにないから」
「……本当?」
「うん。本当」
俺の手を握り締めてくる空。
……柄にもなく弱気だったかも。
「風邪のせいで弱気になってるんだね。早く治るといいね」
「あ、ああ」
「それじゃ、私は洗濯とかするよ。久太くんは寝ててね」
「すまん……迷惑かける」
「いいって。迷惑かけられた方が嬉しいからさ」
といって空は出ていった。
俺は、布団に顔を埋めて、目をつむった。




