西園寺さんの家族②
家では重苦しい雰囲気だった。
おじいさんが亡くなったのだ。俺の前で。俺と将棋を指したあと、倒れて死んだ。みんなはまだこの状況を飲み込みたくないらしい。
「ねえ、おじーちゃんねちゃったの?」
「うん。そうだよ。伊吹も寝よっか」
西園寺さんは辛そうだった。
西園寺さんはおじいさんの言葉から推測するとおじいさんが好きだったらしい。今は無理をして笑っているが、多分、泣きたいと思う。
おじいさんが最期に会ったのが部外者である俺というのはなんだか罪悪感を持ってしまう。
「西園寺さん。大丈夫か?」
「……無理かも」
「そうか。じゃあ、我慢しなくていいよ」
俺は西園寺さんに近づくと西園寺さんはそっと俺を抱く。そして、わんわんと泣き始めた。
その様子を俺は眺めているだけだった。
「ねえ、久太くん。おじいちゃん、最期に何か言ってなかったかしら」
「俺と話していたのは西園寺さんのこととか、東城のこととかそれくらいでした」
「そう。やっぱりあの人は孫が好きなのね」
あきれたようにため息をついていた。
でも、俺にはわかる。手のひらに爪痕が付いていた。さきほどまで強く握りしめていたのだろう。それほど悲しいらしい。
佳も、東城も元気がなかった。
「わ、私の事なんて言ってた……?」
顔を上げて聞いてくる。
俺は言われたことそのまま返した。
「『彼氏ができたと嬉しそうに報告してきた』っていってたよ」
「……おじいちゃん」
「あと、今は娘と孫娘がいるだけで幸せとも言っていました」
最後の言葉は全員に向けて。
その言葉を聞いたら、少々楽になったのか誰かが「ふっ」と微笑みをこぼした。
笑ったのは意外にも東城だった。東城が少し笑っていた。
「幸せ、だったんだな」
「ああ。幸せそうだったよ。そして、将棋が強かった」
幸せそうにしていた。苦しかったのを隠しきれていない笑顔をしていたけれど、多分、幸せとは感じていたと思う。
西園寺さんに俺という彼氏ができたこともきっと、喜んでいたと思う。
いいおじいさんだった。話したことはなかったけど、あの言葉だけでいい人とわかる。
みんなが笑った後、佳がこちらに近寄ってくる。
「ねえ、久太」
「なんだ? 佳」
「……将棋、教えて」
将棋を教えてと頼み込んできた。
多分、おじいさんがやっていたことを知りたいのだろう。俺は断れなかった。
「わかった。じゃあ、あとでやろうか」
そう約束を取り付けた。
約束を取り付けたのはいい。でも、俺にはまだやりたいことがある。
『なら本人に直接聞けばええよ。わからないことは素直に聞く。それが一番じゃ』
おじいさんの教え。わからないことは素直に聞く。
それを聞いた時は納得できた。聞かないで分かった気になるのはダメだということ。知らないことを知らないままにしておくのもよくないと。たとえ、知らないほうがよかったことでも聞かなかったら何も始まらないと。拡大解釈過ぎてるかもしれないが俺はそう捉えた。
だから、俺は聞いてみる。知らないことをこのまま放置はしない。
「ねえ、西園寺さん。ちょっと二人きりで話せないかな」
俺は抱きついている西園寺さんに声をかけた。
夏休み編もそろそろ終わると思います。




