村上家の兄妹④
帰る道中。
ここから村上と吉祥の家は遠くないらしく歩いて帰るとのことだった。
「きゅーた。またあそんでね」
「はいはい。また遊ぼうか」
「やくそく。ゆびきいげんまんしよ」
「はいはい」
俺は小指を差し出して「ゆーびきーりげんまんうそついたらはりせんぼんの~ます」と約束してあげた。随分と懐かれたものでちょっとうれしい。
「茉莉って人見知りするのにねえ。小鳥遊君には人見知りしないんだ」
「……惚れたのかな?」
そう村上さんがこぼすと空が固まった。
「らい、ばる生まれた?」
空が動揺したようにつぶやく。おいおい。まだ幼稚園児だろうが。ライバルと言えるほどでもないじゃん。小さい子相手にもライバル心は持つなって。
「……きゅーた。うちにきて」
「村上の家に? もうこんな時間だからなあ」
もう空は暗くなっている。良い子は家にいる時間だ。
「だめ?」
そんなうるうるとした目で見るなって。断りづらいだろ。
「こら。迷惑かけない。ごめんなさい。小鳥遊君。いつもは聞き分けがいいんだけど……」
「よっぽど好きなんだねえ。茉莉ぃ。お姉ちゃんと小鳥遊君どっちが大事?」
「きゅーた」
即答!?
そう聞いた村上さんが倒れそうなんだけど。吉祥も予想外だったのか少し苦笑いを浮かべている。いや、あの、そこはお姉ちゃんって言ってあげようよ。というか、俺だったとしてもためらって! 一呼吸置くとかして! 考えてよ!
「あはは……。茉莉ちゃん。お姉ちゃんのほうが大事でしょ?」
「ううん」
すぐに否定するな!
というか、村上が固まっていってるんだけど大丈夫?
「茉莉。お姉ちゃんのほうが大事だろ。血がつながってるんだ。このイケメンはつながってない。わかるな?」
「うん。だからきゅーたはおねえちゃんとけっこんして」
「「「ぶっ!!」」」
俺と空と村上が吹き出した。
「あのなあ。この小鳥遊さんには彼氏がいるの。わかる?」
俺に彼氏はいねえよ! 同性愛者じゃないわ! 俺はノーマルだ。空という彼女がいるんだ。決して彼氏がいるわけじゃない。
「まうた。かえしじゃなくてかのじょさんだよ」
「お、おう。そうだったな」
茉莉ちゃんに注意されてどうすんの! 諭すつもりが直されてますけど!
「ともかく、今付き合ってる人がいるの。だから結婚できないの」
「え、できうもん! ごほんでできうってきいたもん!」
「それ絵本だろ……。というか、一夫多妻制の絵本の物語ってあったか?」
ないと思うけどな。
「茉莉。それは絵本の中だよ。この国じゃ一人の女の子としか結婚できないんだよ」
「……できうもん」
「できないんだよ」
「できうもん!」
ありゃりゃ。泣いちゃった。
「こ、こら! 泣くなって! 男がそう簡単に泣くな!」
「茉莉は女の子だよお兄ちゃん」
この高校生の弟さんテンパるとダメな感じか。
「茉莉。おちついて。できるよ。丸太は知らないだけなんだよ」
「……ほら、さやねーちゃんはできうっていってる」
「いや、何言ってんだ姉さん。できるわけ――」
「そうそう! 法律変わったんだよね! できるできる!」
ああ、嘘ついてできるようにするんだな。なるほど。
「だから安心して、ね? ほら、帰ろっか。お姉ちゃんの恋人さんに迷惑かけたら別れちゃうかもしれないからね」
「うん。まついそうすう」
といって抱っこされていった。
「ごめんなさい。小鳥遊さん。少し利用させてもらいますね」
「あ、ああ。わかった。空も構わないか? これは……俺自身予想してなかったんだ」
「う、うん。泣かれちゃ困るもんね。でも、本当に恋人になっちゃだめだよ」
「わかってる。俺は浮気とか不倫はするつもりはないよ」
俺は、空が好きだからさ。
僕が彼氏さんになってあげてもいいんだy((




