自由人、西園寺の母③
「私ねえ、スカウトされたんだー」
と嬉しそうに語る佳。
たしかに佳は容姿は整っている。空の従妹なのだし、あの自由人である雲さんの血が通っている姉妹の娘さんだと聞いている。だとすると容姿がいいのも納得は行くのだ。
「今話題なんだ。……まあ、それは実力じゃなくて人気なだけなんだけど」
と、実力はあまりないという佳。さっき「演技力には自信がある」とかそういうこと抜かしていなかったか?
「たしかに最近ちらほら見るよ。バラエティにも結構出てるよね」
「私は基本的に何でもするからね。そ、れ、に」
「それに?」
「西園寺グループの会長の娘の従妹って言ったら話題になった」
「空の名前勝手に出したのかよ!?」
使えるものはとことん使うタイプだこの子!
「いや、空姉ちゃんの許可はもらったから!」
「事後承諾みたいなものだったけどね……」
事後はだめだろ。
「というか今も密着番組の取材がね。あって。今密着されてる」
と、佳は扉のほうを指さした。
するとそこにはカメラマンらしき人がカメラを抱えてこちらを撮っている。まじかよ!? 密着されてんの!?
「紹介しますね。こちらが私の従妹の空姉ちゃんとその彼氏の久太です」
「ど、どうも」
空は笑みが引き攣っていた。
あの後、佳はみっちり空に叱られていた。それもカメラに撮られている。
「初めて空姉ちゃんに怒られた……」
「来る前に疲れることがあったからなあ。あと、佳も暴走しすぎ」
「だって楽しみだったんだもん」
口をとがらせて言う。
こいつは何気に空のことが好きだ。
「空も少しは落ち着きなって。ほら、雲さんが料理を持ってきたから」
「おっまたー!」
元気に手を振る雲さん。
「お久しぶりです! 雲さん」
「おお! 佳ちゃん! でかくなったねえ!」
「はい! でかくなりました!」
「そうかそうかあ! ……あ、そだ。佳ちゃんモデルさんになったんだってえ?」
「はい!」
「ふふ。じゃあマスコミには気を漬けなさいねえ。佳ちゃん美人だからすぐ話題になっちゃうわ」
いや、今なってるから。現在進行形で話題の人だから。
「で、あのカメラって何? 私の料理を撮りたかったの? 言ってくれればいいのにい!」
「いや、あれは佳に密着取材しているだけですよ」
「あら、そうなの? でもいいわ! ほら、たーんとおあがりなさ……。こほん。おあがりよ!」
あの、それ少年誌のある漫画を意識して言ったよね?
まあいいや。俺は作っていただいた料理を口に運ぶ。
美味しい。このパスタってなんていうパスタかわからないけどうまい。
辛くて、でも、食欲をそそられるようなお味。
「辛いっ!」
「あらー、辛いのだめだったっけ?」
「ダメではないんですけど……苦手なんです」
「それ、ダメと同意義だからな」
俺はパスタを食べながらツッコミをいれた。




