自由人、西園寺の母①
『久太くんに逢いたいという人がいる。家まで来てくれないか』
という君清さんからのメールが届いた。
俺に会いたい、だと? 誰なんだろう。君清さんが言ってくるってことは相当重要な人なのかもしれない。失礼のないようにしなければならない。
と、意気込んで家に来たのはいいんだけど……。
「逃げた!?」
「自分が探しに行くんだーって言って小鳥遊様を探しに……」
「あの天真爛漫なやつめ……。探して連れ戻してこい!」
家に着くや否やに怒声が響き渡っていた。
ど、どうしたんだろう?
「っと、久太くんようこそ。すまないが少し待っていてくれ。時間はかけない」
「誰か探しているんですか?」
「ああ。すぐに見つけるよ」
「わかりました。待っておきます。……あ、トイレ借りますね。ちょっと緊張が」
「わかった」
俺はトイレまで行った。
トイレを出ると俺の前に空が横切った。
「お、空。おはよう」
と挨拶をすると空はなにかわかっていないように首をかしげながら俺を見ている。
……あ、よーく見たら空じゃなかった。空と似てるけど違った。
「あなたはだあれ? うちのひとじゃないわね?」
「あ、俺は小鳥遊 久太って言います。えっと、貴女様は……」
「小鳥遊!」
小鳥遊という単語に反応したのか驚いたような顔を見せた。
そして、いきなり抱きついてくる。空と似た女性が俺に抱きついてきて、俺はいまいち状況が理解できていなかった。
あ、あれ? って、なんで抱きつかれてるの!?
「貴方が小鳥遊君ね! うんうん、かっこいいじゃない!」
「え、えっと、あの、なんで俺は抱かれてるんでしょう」
「親愛の証よ!」
「親愛の証ですか?」
欧米か。ここは欧米とかじゃないんだから見ず知らずの人とはハグしないんじゃ……。いや、欧米もするかどうかはわかんないけど。
「ふふ。そうだ! 出会いを記念して写真撮りましょう! 今使用人呼んでくるわね!」
「え? この家に使用人ってあの運転手みたいな人しかいないのでは?」
「私が雇ったのよ!」
「雇ったんですか?」
雇ったのかよ!?
ん? 雇う? ということは雇える立場にいるということだ。つまり、この家では偉い人。
空と似てて偉い人といえば……。
「も、もしかして空のお母さん、ですか?」
「ふふ。お義母さんって呼んでくれてもいいのよ!」
やっぱりか!
空と顔が似てるし、なんか若くない? 空は十九だし三十は軽く超えてるはずなのにまだ二十代前半くらいにしか見えないんだけど。
わっかいなあ。空のお姉ちゃんだと思えるよ。空は一人っ子だから姉妹はいないからお母さんだとわかったけどさ……。
「あ、あの、空のお母さん」
「お義母さん」
「空の……」
「お義母さんと呼びなさい!」
「……お義母さん。若いですね」
「そんなことないわ! これでも老けてるわ!」
いや、全然老けてるようには見えなんだ。
「でも若いとは言われるわね」
「でしょう? 若いんですもん。本当に」
「でも私お茶とか好きなの! 冬になったら漬物を漬けてるわ! それに盆栽も育ててるわね」
「見た目に反して趣味が渋い!」
この人盆栽とか渋いな!
「って、いた! お母さん、お父さん探してたよ!」
「あらー、わかったわー。じゃ、行くわね。バイバイ! 小鳥遊君! 娘をよろしくね!」
「その娘が目の前にいるよ! というか、久太くんも一緒に行くんだからね!」
「そうなの? じゃあ一緒に行きましょうか。手つなぎます?」
「つないじゃダメ! いい年こいて手を繋がないの!」
おお、空が慌ててる。なんだか新鮮だ。




