西園寺さんの家族①
戻ってくると西園寺さんのおじいさんに出会った。
おじいさんは俺を見つけると笑顔でこういう。
「君、将棋させるかい?」
と。
俺は将棋は指せる。三月のラ〇オン読んだらやりたくなってしまい俺のじいちゃんと指していたものだ。じいちゃんは二年前に脳梗塞で死んでしまって今は指してないが。
「はい。それなりには」
「よかった。じゃあ、一局わしと対局してくれんかね」
「俺でよかったらいくらでも」
部屋に移動して、駒を並べる。
西園寺さんのおじいさんは扇子を扇ぎながら、局面を見ている。
「先攻ええよ」
「あ、なら」
俺はまずは歩を動かす。
そして、そこから取って取られの攻防戦が始まった。
「そういえば、うちの孫娘はどうじゃ? 可愛いじゃろ」
「はい。とてもかわいいです。あ、角いただきます」
「む。そこは気づかんかったわい。で、孫娘についてどう思っておる? 素直な気持ち述べてええよ」
西園寺さんに対する気持ちか……。たしかに思っていることはある。不満点ではなくて、疑問点が。
「西園寺さんは俺のどこに惚れたんだろうって今不思議に思ってます」
「見た目じゃないのかの」
「多分それもあると思いますけど、違うと思うんですよね」
俺に惚れる要素はどこにもなかった。
非モテ集団にいるときは見た目も冴えなくぼさぼさ髪と不格好なメガネをつけていた。はたから見ると近づきたくもないような奴だったと思う。
そして、さらに西園寺さんとはなんの接点もなかった。あるとしたら、少し話したくらいだ。だから、惚れられることはしていないのになぜ惚れたのか。それが不思議でならない。
「そうか。きっと孫娘にも思うところはあるのじゃろうて。あ、桂馬もらい」
「そう、なんですかね。きっとそうなんでしょうけど、俺はその思うところを知りたいですね」
「なら本人に直接聞けばええよ。わからないことは素直に聞く。それが一番じゃ」
本人に聞くったって俺にはそんな勇気ないしな。ヘタレ? ヘタレでいいだろ……。俺は慎重派なんだよ。
「あと、大輝に目の敵にされておるようじゃな」
「まあ。俺は大して気になっていないんですが、なぜ俺にあそこまで突っかかってくるのかわからないんですよね」
「大輝は昔から空のことが好きだったからのお。お前さんに取られて妬いてるんじゃよ」
「そうなんですかね」
たしかに東城からしたら恋煩いをなくしてしまった。俺のせいで恋をなくしてしまったと同じだから恨まれるのは仕方がないと思う。ただそれは逆恨みというものだけど。
「お前さんは本当についてるの。空を彼女に迎えられて。空から毎日メールで彼氏ができたと嬉しそうに報告してきたわい」
「はい。でも、西園寺さんは可愛いんでクラスの男子からの嫉妬がすごいですけどね」
「はっはっ。さすがわしとばばの孫よ。その優れたる美貌は受け継いだか」
おじいさんは笑う。どうやら西園寺さんのおばあさんは相当綺麗な方だったらしい。
「で、そのおばあさんは今どこに?」
「数年前に亡くなったよ。すい臓がんの末期じゃった」
あ、地雷踏んだ。
「まあ、そんな気にせんでええよ。今は娘と孫娘がいるだけで幸せじゃからの」
笑顔をみせるおじいさん。
その笑顔は、どこか苦しげだった。何かを我慢しているような。なにかをあきらめたような感じとごっちゃまぜの笑顔。
辛そうだった。
「王手じゃ」
「あ」
「この勝負楽しかった。礼を言うよ。わしも歳食っとるとはいえまだまだ……」
その時だった。
おじいさんが、盤面に顔を打ち付けた。盤面の駒が辺りに散らばる。
「おじいさん!!」
俺が呼び掛けてみても反応はない。
俺はおちついて救急車を呼んだ。だけれど、もう、手遅れだった。西園寺さんのおじいさんは、そのまま、息を引き取った。




