閑話 民天堂社員の話
最近、社長の娘さんの様子がおかしい。
入社して初めて空ちゃんを見た感想はとても可愛くて庇護欲をそそられるような女性だった。だけど見た目とは裏腹に仕事はきっちりとこなすキャリアウーマン。それでまだ高校三年生という若さだ。正直、俺よりも仕事できると思う。
「渡部さん。この資料を頼みます」
「かしこまりました……」
仕事ができるキャリアウーマンのはず、なのだが。
「きゃっ!」
最近、仕事のミスが多い。
何もないところで転んでるし……。す、スカートの中も見えている。きょ、今日は白いパンツらしい。
白いパンツの空さんには同年代の彼氏がいるらしい。俺も見たんだが、それがものすんごいイケメン。ジャニーズにいるような甘い顔をしている。
ただ、綺麗な薔薇にはとげがある。あのイケメンにもなにか悪いところがあるはずだ!
……まあ、こんなこといってもモテない男の僻みにしかならないんだけど……。
「渡部どうした。ため息なんかついて」
「いや、イケメンになりたいなあって」
イケメンならさぞモテモテになるんでしょうな! バレンタインなんか山のようにチョコをもらうんだよきっと! チョコレートの食べ過ぎで糖尿病になればいいと高校の時何度思ったことか! 俺なんか母ちゃんからしかもらえてないのによ!
「お前じゃ無理だよ」
「ばっさり切り捨てるなよ。まだ希望がある!」
「いや、お前に希望なんてものあるかよ」
うるさいな! 希望はあるって言ってんだろう!
社員食堂で俺は一人でご飯を食べていた。
メニューはサバの塩焼き。この程よい塩加減が絶妙なのである。
「相席、いいですか?」
「どうぞ」
相席を求められたので合意すると俺の目の前に女性が座ってきた。
ふむ。胸デカいな。顔は……。
「空ちゃん!?」
「あ、渡部さん。こんにちは」
社長令嬢の空ちゃんが目の前に!
間近で見てみるとやっぱりかわいい。あのイケメン彼氏と付き合ってるとムカつくが。
「って、俺の名前覚えてくれてるんですか?」
「はい。この支部の社員の肩の名前は大方把握しておりますが」
すげえ! この支部でも普通の企業くらいにはいるはずだぞ!?
何百人働いてると思ってるだここで。それを全部把握してるっておかしいだろ。俺なんてまだ入社二年目なのにもう覚えられてるとは。
超人かなにかか。
「そ、それは大変なことで。でも、平社員の名前なんかふつう覚えないのでは?」
「この会社は社員一人一人も大事にするんですよ。名前を覚えるのは当たり前なんです」
おお、天使だ。この子めっさ天使や!
俺の汚い心が浄化されていく。や、やめろ! 俺の心にブラッシングをかけるんじゃない!
「さすがに誕生日までは覚えられていませんが……」
「そこまで細かく覚える必要あるんですか?」
「はい。この会社では誕生日の人には父さんが自腹で誕生日プレゼントを贈っているんです。社員の皆様に。なので私も全員覚えて誕生日プレゼントを贈れたらなと思っておりまして」
社長太っ腹すぎる! 自腹で誕生日プレゼントを買ってるって。
俺も確かにもらった記憶がある。つい先日もらったばかりだ。テレビ一台を。……いや、たしかに一人暮らし始めたばっかで家具がなかったとはいえさ。誕生日プレゼントにテレビ一台って……。太っ腹すぎるだろ!?
しかも4Kの大型テレビ。一体何十万したんだろうか。
「……社長ってものすごくいい人ですね」
「お人好しなだけですよ。うちの父さんは」
お人好しにもほどがありますよ。
どうりで求人票でやめた人が少ないわけだ。で、やめた人の理由も寿退社とかそんな感じ。いびられてやめた人もいるけどさ……。
「俺、この会社に就職してラッキーです。ほんと、俺みたいなの雇ってくれてありがとうございました!!」
「いえ、あなたの勤勉さを評価してですよ。あなたは真面目ですし、これからも頑張ってください!」
俺は決めた。空ちゃんについていくと。
……あと、これだけは言いたい。
髪、はねてますよ。
この回は書いていてとても楽しかったです。




