海へ行こう!⑥
一人海辺を歩いていた。
さっき、少し頭に血を上らせすぎた。逆上してしまいそうで、今にも殴りかかりそうな気持ちだった。
でも、これって俺が空を独占してる感じなのでは……。
――いや、彼氏なんだから少しくらいは独占してもいいのか。
「小鳥遊!」
いや、でもなあ。束縛しすぎなんていうのもよくないっていうだろ?
束縛しすぎて不自由を感じて怒って別れるというのはよくあることだ。だから束縛しないようにするのがベストじゃないんだろうか。
「たーかーなーしーくーんー!」
束縛する彼氏にはなりたくないな。俺は空にも自由でいてほしいし……。
うむ、先ほどのはちょっと反省しなければな。
「聞けやごらあああああ!」
と、突然誰かに突き飛ばされ、海に落ちた。
海面から顔を出してみるとそこには結城がいた。結城はぜえぜえと息を切らしている。また、こいつか。何度俺を怒らせればいいんだ?
「……はっ!? ついかっとなって」
「いや、わざとだろ」
「なわけあるか! その、突き飛ばしたのは呼んだのに返事もしてくれなくてイラついたからなんだ……。その、俺は、だな」
「……なんだよ」
何か言いにくそうにしている。
口をもごもごと動かしていて、なにかを葛藤しているような気がしてならない。
「……ごめん」
意外にも出た言葉は謝罪だった。
「ごめん」といって頭を下げる。さっきまでとは違う結城に驚きを隠せていない。
「……は?」
俺も、間抜けな声を出していた。
「えっと、俺、その、勝手に勘違いしてたみたいだ。うん、俺が、悪くてだな」
「あ、お、おう?」
「その、謝りたかっただけだ。ごめん」
意外とこいつは素直なのか?
素直というのか、それとも、なんか裏があるのか? 真意はわからない。だから、さっきの暴動も許すというわけにはいかないんだけど……。
それでうじうじ悩んでも仕方のないことだ。とりあえず、許すことにはする。
「いいよ。もう。俺も一寸は言いすぎたし」
「そ、そうか?」
顔を上げると笑顔だった。
なんかムカつく。
「えーっと、じゃあ、そこに立って後ろ向いて待ってて」
「は? な、なにすんの?」
「いいから」
俺は睨みつけて立たせた。
さてと。俺は距離を取る。そして、一気に結城に向かって駆け出していった。裸足で砂浜を走るのは足を取られて速度は出ない。だからこそ距離を取って助走をつける。
そして、俺は結城にむかって飛び蹴りを放った――
「いってえ……」
「これでお相子だ」
「だからといって飛び蹴りまでするかよお……」
俺は結城と一緒にブルーシートのところまで戻っていく。
俺の飛び蹴りによって吹っ飛んだ結城は海に落ちていった。背中には俺の足跡がばっちりとついていて、赤くなっている。
「おかえり、久太くん」
「おう。ごめんな。心配かけて」
「ううん。今度作ってあげるから今日は我慢してもらっていいかな」
「ああ。いいよ」
今度作ってくれるらしい。それは素直に嬉しかった。
「あ、そうだ。小鳥遊君お腹空いてるって思って海の家で焼きそば買ってきてあげたよ。ほら、お代はいらねえぜ!」
「ありがと。吉祥」
「飲み物です。好みはわからなかったので適当に私が見繕いましたが、飲めますか?」
と、村上はお茶を渡してくる。
悪くない。
「飲めるよ。ありがとさん」
俺はブルーシートに座り、割りばしを割った。
海が案外長くなっている……。




