海へ行こう!⑤
「――ふざけるな」
怒りのあまり紡ぎだした言葉はそれだった。
多分素でこれなんだろう。だとしたら、本気で気持ち悪い。自分がかっこいいと思い込んでいるバカ。俺は、怒りを隠すことはできなかった。
「――え?」
「ふざけるな。お前はかっこよくなんかない」
「は? どこがだよ。お前のほうが……」
「どこが……か。わかってないなら教えてやる。かっこ悪いのは言動、態度、行動、容姿すべてだ! お前はすべて並みの人間に劣っているやつなんだよ」
頭に血が上ってきた。
こんな時こそ冷静にならなければ。怒りに身を任せてはダメだ。少し、落ち着きたい。心を落ち着かせたい。
「……ちょっと、頭冷やしてくる」
俺はそう言ってその場を離れた。
☆ ☆ ☆
「……久太くんが怒った」
それは空にとって意外だった。
久太が怒るところは見たことがある。だがそれはどれも私に危害を加える者ばかりで。自分が気がい加えられて怒ったことはなかった。
なのに、今は弁当を取られて、空に告白したことに怒った。それが意外だった。
「あいつ、俺のどこがかっこ悪いって……。ふざけるな!」
結城は怒りをまき散らしていた。
「結城。小鳥遊君に謝りなさい」
「は? なんでだよ。俺は悪く」
「あんたが悪いわ」
禊はそう言い切った。それに吉祥と村上もうなずく。
「……結城。座れ」
久我山が冷たい声をだした。普段の彼女とは違う声にみんな驚いている。
久我山も、本気で怒っていたのだった。彼女は付き合ってる二人を遠めから見るのが好きだった。小鳥遊を怒らせたのが久我山の怒りにもつながる。笑顔の小鳥遊が好きだったから、笑顔の空が好きだったからだ。
「え、なんで……」
「座れ。いいから」
有無を言わせない視線を感じたのか素直に座った。
「……お前は小鳥遊に謝れ」
「俺は何も悪いことしてないっていうのに謝れというんですか。おかしくないですか」
「どこがおかしいの? 私から見たら結城のほうが悪かったように見えたけどな」
「はあ!?」
どう見たらそう見えるんだと喚き散らす。
村上はその怒声に耳を押え、吉祥は冷たい目で結城を見ていた。
「君がした行為は略奪。人の物を盗むという行為。要するに、本人の目の前で奪おうとした行為ってことはわかるでしょ。それは悪くないの? まさかそれすらわからなかったとかいうんじゃないよね? そこまでバカじゃないよね?」
「うっ……。で、でも小鳥遊は俺を罵倒したじゃないか! これでお相子……」
「なるわけないじゃない。バカじゃないの?」
禊がそういった。
なるわけがない。久太は彼女を取られそうになったのに対して悪口だけとは何とも釣り合わない。
「それに、この際だから言わせてもらうけどあなた、それほどかっこよくないわよ。ナルシストもいい加減にしなさいな」
「ナルシスト!? どこがだよ! それをいうなら小鳥遊のほうがナルシストだろうが!」
「小鳥遊君はかっこいいわよ? ねえ」
「うんうん。小鳥遊君はほれぼれするくらいかっこいいよ。あ、でも空さんから奪わないからね!」
「たしかにかっこいいです」
梵も同調した。
「小鳥遊君はこの場にいる全員がかっこいいといっているわ。でもあなたは誰もかっこいいとは思っていないわよ」
うんうんとうなずいていた。
「あなたは思い込んで子どもみたく癇癪を起してるだけだよ。それの、どこが悪くないと言えるのか、わからないから先輩に教えてくれないかな」
結城は言葉に詰まった。反論もみつけることはできない。
次第に、結城の眼からは涙があふれてきたのだった。ぽろぽろと流れ落ちる涙。だが、だれも可哀想とは思わなかった。いや、訂正しよう。一人思っているやつがいる。
「はっ。これで改心すれば妾は許してやる。寛大だからな」
まさかの梵が擁護するとは思っていなかったのかみんな驚いていた。
「それに、言いすぎだ。味方がいないというのはつらかろう。少しは汝たちも頭を冷やしたらどうだ」
「そ、そうね。言い過ぎたわね」
素直に謝る禊。
「でも梵。貴方も嫌っていなかった?」
「嫌いさ。妾は今でもこいつは嫌いだ」
梵は結城に一瞥をくれてやって話し始めた。
「援軍がいないというのは人間にとって辛いだろう? それに、汝たちは一方的に言い寄っているだけだ。少しはこの人間の言い分も聞いたほうがいいだろう」
梵らしからぬもっともな意見だった。
「さてと。あとは妾に任せるがよい。汝らは海で泳法を練習してくるがよいさ」
梵は禊たちを海に行かせて、結城と向きあう。
「汝に忠告しよう。一つ、思い上がることはやめたほうがいい」
「……」
「二つ、空気を読む」
ずっと結城は黙りこくっていた。
傷ついたようだ。ずっと、俯いている。
「三つ」
「もういい」
結城から止められる。
「もういい。悪かったよ俺が。だから、俺を責めないでくれ……」
そういった結城は背を向ける。顔を見たくないからあっちに行けということなのだが。梵には通じることはなかった。
「くよくよするな!」
と逆に背中を蹴られる始末だった。
「くよくよしないで其方の咎を認識しろ! まだやり直せるのだぞ人間は! ほら、久太のとこいって詫びてこい! 早く行け!」
そういって、背中を押したのだった。




