ひどい目に遭いました
バイトが終わり家に帰って風呂に入っていた。
シャワーからでる水が俺を流れていく。シャワーを止め、浴槽につかった。
「疲れたあ」
重たいものを運んで腕がパンパンだ。
そこまで力持ちというわけでもないから、この程度でばててしまう。まあ、日ごろ運動していないというのもあるかもしれないが。
それにしても、空の弁当惜しかったな……。
出汁がしっかりときいただし巻き卵。醤油味で冷めていても音が聞こえるから揚げとか、空が全部作ったという料理を堪能したのが今日一番の幸せだった。
空って料理上手。流石だと思う。
空って苦手なものなさすぎだと思うさ。
料理も完璧、掃除もできる、家事全般できるとは聞いた。で、勉強もできて気配りもできるし、仕事も難なくこなせる。
俺の中の空像は完璧超人だ。
苦手なものはないというイメージがある。
すげえ。俺とは大違いだ。
俺は苦手なことだってあるのに。たとえば楽器の演奏とか。
思い出すのは小学校の学芸会。
みんなで宇宙戦艦ヤマトを演奏したのだが。俺がやったのはトライアングルだ。最初はアコーディオンを希望して、やってみた。けれど、全部音が違って、演奏にならなかったという。
さらにまだある。簡単な打楽器でさえもなんだか音が変になる。
というか、楽器に関しては触れるなと言われた。大太鼓をやれば壊れ、小太鼓だったらばちが折れ、カスタネットは木が割れる。楽器クラッシャーとも呼ばれたことがある。
演奏とかそれ以前の問題。俺が唯一壊さなかった楽器がトライアングルなのだ。
くそう。俺はきらきら星(トライアングルで)しか演奏できないのに。空はピアノとか引いてそうだ。
高校に入ったら軽音部に入りたかった。けど、ギターとか何本も無駄にしそうでやめた……。
あと、俺が苦手なのはコミュニケーションか。
これは言わずもがな。俺は友達がいなかった。ずっとぼっちで過ごしていた小中学校9年間。高校では隆たちが友達だけれど、自分から話しかけることはなかったと思う。
初対面だと何話していいかわからない。
「空はなぁ。きちんと話せてるしなあ」
うう。空と比べて俺というやつは……。
なんだか悲しくなってきた。あがろう。
俺は浴槽から出て脱衣所に出る。すると、服を脱いでいる瑞穂と目が合った。
「なっ……」
「に、兄さんはいってたの!?」
「入ってたよ! そこに俺の着替えがあるでしょうが!」
「ああ、ほんとだ!」
すでに下着姿の瑞穂。
俺は目をそらす。ただ、瑞穂の体を見て思ったことは。
「ちっちぇなあ……」
ということだった。
瑞穂の胸と比べて……。なんでもないです。
「何を見てちっちゃいって!? ほら、兄さん。何を見てちっちゃいって言ったか詳しく!」
「聞こえてんのかよ!」
「瑞穂の悪口に関しては敏感なんですぅー! というか、貧乳で悪かったね! 空さんと比べたら瑞穂は小さいですよ! 日本人の平均のBカップですよーだ!」
瑞穂がむくれた。
「だ、大丈夫だ。母さんと同じなんだから」
すると、アイアンクローを受けた。
恐る恐る後ろを見ると怖い笑顔を浮かべた母さんが俺の頭を掴んでいた。
にっこりと。それはまるで、死者に向ける弔いの笑顔みたいな。死神が獲物を見つけたような笑顔をしていた。
風呂に入ったばかりなのに背中に冷や汗が流れる。
「ちょっとしごく必要があるわね」
「ちょ、まって、着替えて……」
そのあと、俺の叫び声が家の中に響いた。
「きゅ、久太くん? なんで頭に包帯巻いてるの?」
「……死神に、出会った」




